« 図説アイルランドの歴史 | Main | 平成の終焉 »

May 04, 2019

あなたのためなら

「人を疑わず、心優しいのがこの者の美徳なら、これは晴太郎の才だ。わたくしは幸次郎に相手をしてもらうから、茂市と新しい工夫のわらび餅とやらに、取り掛かりなさい」

「あなたのためなら 藍千堂菓子噺」田牧大和著(文藝春秋)

江戸の上菓子司シリーズの三作目。いつも菓子の工夫ばかり考えている兄・晴太郎と、商売上手の弟・幸次郎に、忠実な職人・茂市やしっかり者の佐菜親子が加わり、いつもながら細やかな情愛が描かれて気持ちがいい。それぞれ気象のタイトルがついた、書き下ろしを含む5編の連作。
特に今作は兄弟に因縁がある、いとこのお糸が魅力的。身勝手な父に強く反発しつつも、菓子司の総領娘であることに誇りと熱意をもつ。謎の婿候補・彦三郎にその屈折した胸のうちを見透かされ、恋とはいえない微妙な思いが通う。そして意外に血なまぐさい事件に巻き込まれちゃう。ラストの幸次郎とのやり取りまで、ほろ苦くて凛として、なんとも絶妙な女性像です。
見事な上菓子作りのプロセスも興味深いけど、まかないおやつで頻繁に登場する金鍔が楽しい。日本橋・榮太郎で頂いた、焼き立ての美味を思い出します。いろんなシリーズを手がけてらっしゃるけど、藍千堂、続けてほしい!(2019・5)

« 図説アイルランドの歴史 | Main | 平成の終焉 »

Comments

Post a comment

Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.

(Not displayed with comment.)

« 図説アイルランドの歴史 | Main | 平成の終焉 »