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May 25, 2019

平成の終焉

ともに膝をつき、一人ひとりに向かって語りかける「平成流」と呼ばれるスタイルは、美智子妃が主導する形で、昭和期の行啓のなかにすでに芽生えていたのです。

「平成の終焉ーー退位と天皇・皇后」原武史著(岩波新書)

新元号や退位・即位のイベントで、なんだか明るい気分になっている2019年。そのことにケチをつける気は毛頭ないんだけど、ちょっと冷静になってみると… 毎日出版文化賞の「大正天皇」、司馬遼太郎賞の「昭和天皇」などで知られる研究者が、「平成」の意味を問う話題作だ。

まず2016年に、天皇みずから退位の意向を、一般に向かって直接語った「おことば」を分析。それがいかに異例なものだったか、ということ、さらに、実は誰もよくわかっていなさそうな「象徴」をどう定義しているか、を読み取っていく。
祈り=宮中祭祀と並んで、重要な務めと自認していたのは「行幸」だと喝破。そこから皇太子時代の地方訪問について、平成につながる要素を解き明かしていく。
なにしろ公式資料が十分でないので、地方紙の報道を丹念に追って、一回一回の訪問の内容を掘り起こしていく。その労作から導かれる「人々に近づき、語りかける」スタイルがすでに昭和期からみられ、背景に美智子妃のカトリックの教養がありそうだ、という分析には驚かされる。

天皇は恋愛結婚という選択に始まり、天皇家の家族観を革新。憧れと同時にバッシングに遭ったり、右派の揺り戻し「提灯奉迎」を受けたりしながらも、直実に独自の「象徴」を形作ってきた。粘り強さに改めて感嘆するし、それほどに、過去の天皇の苦悩が深かったのかもしれない、と思う。また、行幸での触れ合いがたとえ何ら目の前の問題を解決しなくても、忘れられがちな人々に対して、ただ「忘れていないよ」というメッセージを届けるのなら、それはまさに、統合の象徴という仕事であり、この分断の時代に、貴重な意味をもつように感じる。

そのうえでやはり、こうした象徴の定義は本来、主権者一人ひとり、あるいはその代行者である国会が議論すべきもの、という指摘には、うなずかずにいられない。盛り上がる令和お祝いムードに、全く罪はないのだけど、ムードから「政治利用」への距離は、本当にほんの一歩だ。代替わりによる皇室のキャラクターの変化も、未知数、かつ不可避なのだろうから。(2019・5)

May 04, 2019

あなたのためなら

「人を疑わず、心優しいのがこの者の美徳なら、これは晴太郎の才だ。わたくしは幸次郎に相手をしてもらうから、茂市と新しい工夫のわらび餅とやらに、取り掛かりなさい」

「あなたのためなら 藍千堂菓子噺」田牧大和著(文藝春秋)

江戸の上菓子司シリーズの三作目。いつも菓子の工夫ばかり考えている兄・晴太郎と、商売上手の弟・幸次郎に、忠実な職人・茂市やしっかり者の佐菜親子が加わり、いつもながら細やかな情愛が描かれて気持ちがいい。それぞれ気象のタイトルがついた、書き下ろしを含む5編の連作。
特に今作は兄弟に因縁がある、いとこのお糸が魅力的。身勝手な父に強く反発しつつも、菓子司の総領娘であることに誇りと熱意をもつ。謎の婿候補・彦三郎にその屈折した胸のうちを見透かされ、恋とはいえない微妙な思いが通う。そして意外に血なまぐさい事件に巻き込まれちゃう。ラストの幸次郎とのやり取りまで、ほろ苦くて凛として、なんとも絶妙な女性像です。
見事な上菓子作りのプロセスも興味深いけど、まかないおやつで頻繁に登場する金鍔が楽しい。日本橋・榮太郎で頂いた、焼き立ての美味を思い出します。いろんなシリーズを手がけてらっしゃるけど、藍千堂、続けてほしい!(2019・5)

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