ラッシュライフ
想像をしてみろ。馬鹿な失業者はもちろんのこと、自分ではうまくやっていると勘違いしている泥棒や宗教家、とにかく、今、この瞬間に生きている誰よりも私は豊かに生きている
「ラッシュライフ」伊坂幸太郎著(新潮文庫)
積読の山から2002年出版、人気作家の第2作目を発掘。仙台を舞台に、裕福な画商やリストラにあった中年、空き巣狙い、新興宗教の信者ら5つの人物と、関わる人々の運命を描く群像劇だ。
登場人物はそれぞれに、人生の重大な転機に直面している。繰り返し登場するエッシャー「上昇と下降」が、そんな観る者の状況によって明るくも暗くも見えてくるのが、まさに騙し絵のよう。タイトルの「豊かな人生」の意味あいもいろいろだ。終盤にかけ、思わぬところで5つのストーリーが次々に交錯し、かつ時間軸の微妙なずれが種明かしされていくあたりは、超絶技巧ぶりに読んでいてクラクラする。
身勝手だったり絶望にかられていたり、共感できる人物は少なかったけれど、腕のいい泥棒の黒澤だけは魅力的。腕はいいけど欲は無く、人を食った物言いが小気味いい。作家の複数の小説に登場しているリンクだそうで、こういう仕掛けもファンにはたまらないんだろうなあ。(2018.9)
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