SHOE DOG
寝てはいけない夜がある。自分の最も望むものがその時やってくる。
「SHOE DOG. 靴にすべてを。」フィル・ナイト 著(東洋経済)
ナイキ創業者の疾風怒濤の起業家人生。危機また危機の、リアル「陸王」だ。
60年代、オレゴン大学の陸上選手だった若者が世界一周の旅に出て、日本製シューズと出会い、輸入販売のビジネスに踏み出す。それから約20年。常に綱渡りの資金繰り、取引先との訴訟、新製品のリコール。日本の中小企業と変わらず何度も追い詰められながらも、世界ブランドを築き上げ、上場を成し遂げる。ハラハラドキドキ、面白すぎて550ページ弱を一気読み。
間違いなくナイトは聖人君子ではない。無茶なはったりやら、勝手な人事やらも赤裸々。おそらく記述には、一方的な言い分も含まれるだろう。
それでも散りばめられたユーモアと、苦しいときほど、むくむくと頭をもたげる闘争心が、なんとも痛快だ。ウィンブルドンで「気が荒いから近づかないでください」と忠告され、たちまち魅せられたというプレーヤーが、当時まだハイスクールの学生だったマッケンロー、という逸話が洒落ている。
これがオレゴン魂というものか。やんちゃ揃いの幹部たちとの冒険の果てに、自分のしていることは単なるビジネスではなく、創造なんだ、と宣言するくだりが感動的。「単に生きるだけでなく、他人がより充実した人生を送る手助けをするのだ。もしそうすることをビジネスを呼ぶならば、私をビジネスマンと呼んでくれて結構だ」。格好いいなあ。
日本との縁が深いのも興味深い。シューズビジネスへの道を拓いたオニツカ(現アシックス)とは結局、激しく争うことになってしまった。一方で、危機を救ったのは日商岩井(現双日)の商社マンの慧眼。いまアシックスの経営者が双日出身というのも運命の不思議かも。ドライブ感満載の名訳は大田黒奉之。(2018・2)
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