オペラでわかるヨーロッパ史
統一イタリアの現状に失望していたヴェルディは、シモンに政治家としての理想像を託したのではないだろうか。
「オペラでわかるヨーロッパ史」加藤浩子著(平凡社新書)
ミーハーな初心者にもわかりやすいオペラ解説で知られる著者が、ヴェルディ、プッチーニなど人気演目の背景を綴る。ストーリーが描く歴史的事件はもちろん、作曲・初演時点での国際情勢も重ね合わせていて、鑑賞の楽しみが増す一冊だ。
源平の合戦とか赤穂浪士の討ち入りとか、伝統芸能には設定を誰でも知っているという前提で書かれたものが多い。オペラもしかり。例えばドニゼッティのテュ-ダー朝3部作は、多くの小説や映画にもなっているテーマでもあり、やはり英国王朝のドロドロを知って観ると興味深い。人間関係はさらに、ヴェルディのハプスブルク朝スペインを舞台にした「ドン・カルロ」にもつながっていくのだから、欧州史はダイナミックだ。
作品は世に出たタイミングの時代背景とも、無縁でいられない。ヴェルディの「シモン・ボッカネグラ」の主題は、14世紀ジェノヴァの政争。奇しくもイタリアは初演1857年の4年後に統一という歴史的な大事業を成し遂げるが、不安定な政情が続く。
そんな状況もあって、およそ四半世紀後に大幅改訂された現行バージョンには、大詰めに平和を訴える象徴的なシーンが付け加えられたという。個人的には「椿姫」「アイーダ」などと比べて地味な印象だったけど、解説を知れば感動ひとしおだ。
著者は作曲家の家族に対する思いにも迫っている。深いです。(2016・10)
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