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October 20, 2016

螻蛄

「ええな。打ち合わせたとおりに喋れよ。ミスったらおまえの責任や」
「喋りはおれより桑原さんのほうが巧いやないですか」
「わしはあかん。堅気を相手にくそ丁寧なものいいはできん」
「いつでも巻き舌のケンカ口調ですもんね」
「どこが巻き舌や、こら」
「その喋りが怖いんです」

「螻蛄」黒川博行著(角川文庫)

人気ハードボイルド、疫病神シリーズの1冊を読んでみた。2014年に6回目の候補入りで直木賞をとった「破門」の前作にあたる。ひたすら「シノギ」=稼ぎに邁進する大阪イケイケ極道・桑原と、こき使われる建設コンサルタントの二宮。行動力と会話にテンポがあって、650ページ超を一気読み。

いってしまえば、舞台装置に驚きはない。巨大宗教法人の内紛、怪しげな手形や美術品取引や土地開発、巻き込まれるオーナー企業、そこへつけ入る反社会的勢力。いかにもありふれた経済事件であり、徹底してリアルだ。
主人公のアウトロー2人の行動原理も実にシンプル。1000万単位のシノギがすべてだ。「ヤクザは代紋という看板で商売をする個人事業主で、組はその集合体。上納金は代紋の使用料」という、身も蓋もない説明がわかりやすい。

桑原は脅しと躊躇いのない暴力、東京、名古屋を飛び回るスピード感を見せつけつつ、どうしたら稼ぎを最大にできるか、冷静に分析している。凶暴なくせに、ズル賢く立ち回って、間違っても逮捕なんかされない。
このイケイケ極道に負けていないのが、語り手である堅気の二宮だ。建設現場のサバキ=「ヤクザを使ってヤクザを抑える対策」を生業とし、桑原に振り回されているようでいて、結局は危ない橋を渡り、そのたび、がめつく分け前を吊り上げていく。怪我だらけなのに、暇さえあれば美味しいレストランで食事するし、人に会うと一瞬にしてその服装を値踏みする。逞しいなあ。

悪徳だけど、カネをむしる相手もそうとう悪徳なので、どっこいどっこいだ。きれいな結論が無いから、いっそサバサバしている。カネと本音で結びついた、奇妙な信頼関係のあるコンビ。古いけど、関西弁の「傷だらけの天使」かな。細部が書き込まれているので、「ロケ地」探索の楽しみもありそう。(2016・10)

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