天才と名人
ふたりが盟友であることと、好敵手であることは矛盾しない。ふたりは本気で、競いあって生きてきたのだ。すべてを賭けて、競いあって生きてきたのだ。その葛藤は、彼らのこころのうちにあって、だれにもわからない。
「天才と名人」長谷部浩著(文春新書)
天性の華で広く愛された中村勘三郎、そして抜群の踊りの名手10世坂東三津五郎。タイプは違えど、実力、人気とも梨園の中核を担った2人の芸の軌跡と素顔を、愛情をこめて綴る。著者は現代劇から出発して、伝統芸能をカバーした評論家であり、生前のそれぞれと親交があった。
私個人は歌舞伎を頻繁に観るようになって、まだ日が浅いのだけれど、読みながら2010年歌舞伎座さよなら公演で観た「助六」のシーンが甦った。祝祭的な、これぞ歌舞伎というべき演目で、2人は通人里暁と福山かつぎを演じていた。ともに飄々と力が抜け、自由で、それでいて色気たっぷり。盟友同士とはいえ、なにもまだ50代と、早すぎる死まで足並みを揃えなくてよかったものをと、悔しい思いを新たにする。
勘三郎は確かな芸の継承はもとより、野田秀樹らの新作から、コクーンや海外での公演まで実現して、歌舞伎のファン層を広げた。けた外れの情熱とプロデュースの才で、時代を駆け抜けたといえるだろう。
対する三津五郎ももちろん人気者だけど、勘三郎に比べれば堅実。着々とメーンのポジションを固めつつ、華々しい親友の活躍を応援する役回りだ。しかしその三津五郎が平成中村座に出ない理由を問われて、「同じ座元だから」と答えるところが感慨深い。
現代に生きるスターであり、互いに認めあう関係。それでも、それぞれ背負う江戸以来の「家」を意識しているし、覚悟を胸に秘めている。そのうえでの古典。深いなあ。(2016・4)
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