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March 06, 2016

東京自叙伝

ドウ足掻いたって万事なるようにしかならぬと、根本のところで諦めて、とりあえず今がよけりゃいいと開き直りつつ、絶えず時流に棹さすのが自分の流儀と云えば流儀であるらしい。マアこの流儀は、私に限らず、世の多くの人士が密かに信奉実践するところでしょうが、どちらにしたところで東京は、と申しますか、日本はいずれ天変地異とともに滅び去るわけだから、あまり深刻に考えても仕方ありません。

「東京自叙伝」奥泉光著(集英社)

2014年に評判だった、幻想歴史小説とでも呼びたい、めくるめく一冊を電子書籍で。通り魔事件の犯人が、自分の正体は東京の地縛霊であり、輪廻転生を繰り返してきたと主張。長い長い供述というかたちで、幕末から大震災に至る都市の自画像を、ハイスピードで語っていく。史実をまるっと虚構にしてしまう、壮大な力技だ。

なにしろこの霊ときたら、時代時代に生きた人物に次々憑依して、常に重要事件に一枚かんでいる。維新やら開戦やら戦後復興やらバブルやら。影の大物っぽくて、途中まではなんだか痛快でさえある。
しかしそこは奥泉さんだ。すいすい読める軽妙なタッチに騙されてはいけない。この重要人物は徹頭徹尾、無責任でシニカル。社会をどこかへ引っ張って行こうという意志は微塵もないようで、その独白からは希望も理想も感じられない。そして行き付く先は、なんともやりきれない現実なのだ。

確かに私たちの土地は繰り返し、天変地異や災厄を経験してきた。希望をもとうとする努力は、長い目で見れば無駄でしかないのかもしれない。だからといって、いま目の前にある出来事に流されるままでいいのか? 終盤、東京の地縛霊が大増殖して、星野智幸「俺俺」を思わせるシーンが登場。すぐに大事なことを忘れちゃう群集を思わせて寒々しい。

書き始めたのは2011年だという。2度目の五輪なんかに沸いている場合じゃない、これが東京の素顔だ――。行間に作家の強い怒りが溢れる。怪作。(2016・3)

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