流(りゅう)
人間ってのはけっきょく、そうやってだれかに守られたり、守ったりして生きていくもんさ
「流」東山彰良著(講談社)
2015年上半期の直木賞受賞作にして、話題の長編を読んだ。北方謙三が「20年に1度の傑作」と評したのもうなずける、スケールの大きい、そして切ない冒険ミステリーだ。傑作。
台北に住む葉秋生(イエ・チョウシェン)が17歳だった1975年、愛すべき祖父・尊麟(ヅゥンリン)が衝撃的に殺害される。成長した秋生はひとり謎を追い、ついには祖父のルーツ中国山東省へ足を踏み入れていく。
「祖父にとって、あの戦争はまだ終わっていなかったのだ。だからこそ後生大事にあのモーゼルを磨きつづけていた。(略)大陸を出たときに止まってしまった祖父の時計は、大陸にガツンと一発お見舞いしてやらないかぎり、ずっと止まったままだったのだ」。賊徒集団と抗日戦争、凄惨な国共内戦、台湾への逃走と本省人との軋轢、言論統制。すぐ近くにあるのに、よくわかっていないアジアの現代史が、骨太に全編を貫く。
そんな歴史を踏まえた謎解きと並行して、台湾版「パッチギ!」と呼びたいような葉秋生のやんちゃな青春が語られ、疾走感いっぱいで、実に魅力的だ。
1960年代から80年代にかけての成長と混沌。悪ガキたちの友情や笑っちゃうほど無鉄砲な喧嘩沙汰、そして幼馴染で気が強い毛毛(マオマオ)との淡い恋がきらきらと眩しい。
まるで少年ジャンプ路線のはちゃめちゃを楽しむうちに、一族を貫く任侠スピリッツが胸に染みてくる。「人には成長しなければならない部分と、どうしたって成長できない部分と、成長してはいけない部分があると思う。その混合の比率が人格であり、うちの家族に関して言えば、最後の部分を尊ぶ血が流れているようなのだ」。アイデンティティの不安があるからこそ、圧倒的熱量が説得力を持つ。
印象的なフレーズがたくさんある。若い恋人同士の「わたしと毛毛を包んでいた透明でふわふわの膜がパチンとはじけ、喧騒がどっと流れこんでくる。わたしたちは火傷したみたいに、おたがいの手をふり払った」。危険を冒して中国に渡った際の「わたしは理解しはじめていた。この国は、大きいものはとてつもなく大きく、小さいものはあきれるくらい卑小なのだと」。隣国から観た日本の変遷も興味深い。(2016・2)
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