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January 30, 2016

アメリカン・ゴッズ

「ご親切にどうも」
 飛行機はまた停止していたが、エンジンは飛びたくてうずうずしているかのように振動している。
「親切なものか」白っぽいスーツの男はいった。「きみに仕事を用意したよ、シャドウ」

「アメリカン・ゴッズ」ニール・ゲイマン著(角川書店)

上下巻で約900ページ。買ったまま、7年ほども積んでいたファンタジーをようやく読了した。模範囚シャドウが出所直後に、運行予定変更で偶然乗りこんだ飛行機。自分を知るはずもない隣席の老人ウェンズデイから、突然親しげに仕事を持ちかけられる。そこから始まる、不思議世界。

移民の国アメリカにはかつて、世界各地から人々が連れてきた神が息づいていた。いつしか忘れさられ、滅亡の危機に瀕した彼らが生き残りをかけ、テレビ、携帯といった物質文明の神に最終決戦を挑む…。というのがファンタジーパートのメーンテーマだ。
自分で買っておいてなんだけど、こういう独自のルールで展開していくファンタジーは苦手かなぁ、と敬遠していた。ところが読み始めると、現実パートがよくできたロードムービーを観るようで、すいすい読めた。

主人公は待ち望んだ出所寸前に、最愛の妻が自動車事故で死んだ、と知らされる。しかも親友と浮気していたという。いいしれない孤独に現実感があり、それが時代遅れになってしまった神々の寂寥と重なっていく。
帰るべき家をなくしたシャドウは、謎の老人ウェンズデイについて全米を旅することになる。ケチな詐欺を手伝ったり、湖畔の田舎町に身を隠して、おずおずと近隣の住民と触れ合ったり。このあたりの軽妙さ、温かさが巧い。
シャドウの道行は、いわば成り行きに身を任せたもの。しかし終盤では、抱いてきた社会への違和感の訳や、自身の父親探し、さらには田舎町で発生した失踪事件の謎解きに至る。この道具立てはロス・マクか、ジョン・ハートか?

ファンタジーパートのほうは正直、読み流しぎみだったけど、巻末まで進んだら登場する神や妖精の懇切丁寧な解説を発見。北欧神話、ギリシャ神話、古代エジプトやペルシア、インド、アメリカ先住民、お馴染み「リング」の世界も。それぞれにひと癖あって、個性いっぱいの面々です。知識とイメージがぎっしり詰め込まれてたんだなあ、と納得。金原瑞人、野沢佳織訳。(2016・1)

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