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August 16, 2015

クララ先生、さようなら

こんなことが起きるなんて、ぜったいだめだ。それも、自分のよく知っている、大好きな人に起きるなんて……。

「クララ先生、さようなら」ラヘル・ファン・コーイ著(徳間書店)

小学校中高学年向けの児童書だが、読みごたえがある。オーストリアの4年生、ユリウスとクラスメートたちは、大好きな担任のクララ先生が病に倒れて、死が近いと知らされる。衝撃を受けながらも、子供たちが選んだ最後の、最高のプレゼントとは。

親しい人の死という避けようのない、難しいテーマを、ごく日常のシーンから多角的に描いている。辛い思い出を抱えている母、別居中の父、老いをひししと実感している祖父、偶然出会った葬儀参列好きのおばあさん、そしてもちろん子供たちに愛され、苦しみながら子供たちのことを思いやるクララ先生……。それぞれ死というものと、ユリウスたちのとるべき行動に関する考えは違う。それを宗教的な解釈に走らず、丁寧に描いている。
何より、自分の頭で考え、行動しようとする子供たちが素晴らしい。大詰め、悲しみのなかで並木道を駆け下りるシーンが秀逸。
石川素子訳、いちかわなつこ絵。産経児童出版文化賞翻訳作品賞を受賞。(2015・8)

August 09, 2015

窓から逃げた100歳老人

 

アラン・カールソンはじっくり考えてから行動するというタイプではなかった。
 だから頭の中で考えが固まるよりも早く、この老人はマルムショーピングの老人ホーム1階の部屋の窓を開け放つや、外の花壇に出ていた。
 この軽業はいささか努力を要した。というのもまさにこの日、アランは100歳になったのである。

「窓から逃げた100歳老人」ヨナス・ヨナソン著(西村書店)

スウェーデン人作家のデビュー作。訳知り顔の連中に誕生日を祝われるなんて、まっぴら御免と、老人ホームを抜け出した1905年生まれのアランは、とんだ食わせ者。偶然出会ったチンピラがからんで、警察、メディアを騒がせながら無計画にスウェーデン中を逃げ回る。

ドタバタユーモア小説だけど、それだけではない。現在(2005年)の逃走劇と交互に、アランの来し方が綴られていくのだが、これがまた徹底的にハチャメチャな現代史のパロディになっている。
ノーベルの故郷だけに、アランは独学で爆弾の専門家となり、成り行き任せに世界を放浪。内戦下のフランコ将軍を救い、オッペンハイマーに重要なヒントを授け、トルーマンと意気投合する。チャーチルとニアミスし、スターリンを激怒させ、金日成をだまそうとして絶体絶命になったところを毛沢東に救われちゃう。バリ島でしばしのんびりした後、スハルト登場を機に欧州に舞い戻り、結果的に東西デタントに一役かう…

名のある指導者とその決断を、軒並み徹底的に笑いのめしているのだ。もちろん荒唐無稽で、展開は荒っぽいのだが、だんだんにアランが生きた100年とは、人類がたどった「戦争の世紀」そのものだと気づく。
原爆開発競争など、日本人にとっては正直、軽々に笑えないシーンも多々ある。しかしそういう点も含めて、大国の選択に対するシニカルな視線が、北欧というバックグラウンドならではなのかな、と思わせて興味深い。
駄洒落も含む難しい翻訳は、「ダブリナーズ」を読んだことがある柳瀬尚紀。(2015・8)

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