« 甘いもんでもおひとつ | Main | 僕と演劇と夢の遊眠社 »

April 26, 2015

酔ひもせず

『驚くことはない。俺の画は、動くんだ』
あの人は、そう言った。冗談とも、本気ともとれない物言いで。

「酔ひもせず  其角と一蝶」田牧大和著(光文社)

宝井其角と多賀朝湖(のちの英一蝶)という芸術家同士の友情を軸にした、元禄ミステリー。吉原で屏風に描かれた仔犬が動く、という噂が広がり、動くのを観た遊女たちが次々姿を消す事件が起きて、2人が解決に乗り出す。
遊女の悲恋をめぐる謎解きと並行して、狩野派風町絵師として活躍する朝湖が、何故か幇間としても働いている訳や、のちに一蝶と名乗るようになった背景を解き明かしていく。

著者にはやはり、歴史上の人物が生き生きと活躍する快作がある。遠山景元(金四郎)、水野忠邦、鳥居耀蔵が登場する「三悪人」だ。今回も期待を裏切らず、主人公たちの造形が魅力的。
朝湖がまず、格好いい。飄々とした風流人だけど、胸に反骨精神を秘めていて、相手が武士でも全く物おじしないのだ。其角と朝湖のコンビ談は、講談「浅妻船」で聴いたことがあり、その講談の設定では、朝湖は時の権力者・綱吉を痛烈に風刺したため、流罪の憂き目に遭っちゃう。そんなイメージに、本作の朝湖もしっくりくる。
そして年下の親友、其角。達観した印象の朝湖に比べ、心持ちが不安定で繊細で、いかにも芸術家らしい。蕉門第一の門弟と謳われる才能を持ちながら、周囲に馴染めず、しょっちゅう毒舌を吐いては後悔している。こちらは忠臣蔵ものの講談「大高源吾」にも登場する人気キャラだけど、未熟な感じが、いい。

2人は才能を認めあい、幇間コンビとして吉原に出入りしたり、酒を酌み交わしたりする仲だ。互いが胸に秘めている面倒くさい屈託も、十分に察しているが、親しいからといって土足で踏み込むような真似はせず、微妙な距離を保っている。このわきまえた付き合い方も、時代物の男って感じで心地いいんだなあ。(2015・4)

« 甘いもんでもおひとつ | Main | 僕と演劇と夢の遊眠社 »

Comments

Post a comment

Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.

(Not displayed with comment.)

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 酔ひもせず:

« 甘いもんでもおひとつ | Main | 僕と演劇と夢の遊眠社 »