短編集 半分コ
戦争の時代ってのは、花を愛でるような人間が目ざわりなんだよ
「短編集 半分コ」出久根達郎著(三月書房)
文庫サイズで函入り、1961年から続いているという個性的な「小型愛蔵本シリーズ」の一冊。手のひらに収まるサイズと、著者自ら筆をとったパンダの装画がなんとも可愛らしい。
収録作品はみな温かく、同時にどこか苦みを含んでいる。例えば「空襲花」。大学の写真部仲間の男女が、水やりのバイトで深川へ赴く。なんてことない2階建て民家だが、ベランダから屋根にかけて見事な朝顔が生い茂っていた。ちょっと理屈っぽい口論をしていた2人は、可憐な花園から、歴史のうねりに直面した家主の秘めた反骨を知る…。
名もない庶民の暮らしの厳しさや、誰もがいつかは味わう老いの寂しさ。そんな苦みがあるからこそ、しみじみとした余韻を残すのだろう。雑誌や電子文芸誌に掲載された16編を収録。芸術選奨受賞作。(2015・3)
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