末期を超えて
ALSは努力すれば勝てる、乗り越えられるという病気ではありません。むしろ自分をオープンにして、人の助けを求めることができた人から生きる道が開かれていくようです。
「末期を超えて」川口有美子著(青土社)
2014年にビル・ゲイツや山中伸弥ら著名人が多数参加した啓蒙活動、「アイスバケツ・チャレンジ」で話題になった難病ALS。過酷な病いにおかされた母を10年以上自宅で介護し、ヘルパー養成や介護派遣事業に携わる著者が、当事者、支援者7人との対話を通じて、希望のありようを問いかける。
24時間の見守りが必要で、食事、移動はおろかコミュニケーションの手段さえ徐々に失われていく。無差別に直面させられる本人はもちろん、家族にとってもその境遇は、想像を絶する厳しさだ。
しかし絶望、諦めに飲み込まれることなく、自ら支援者を育て、行政と掛け合い、国内、海外問わず叱咤激励を惜しまない。強靭な意志と明るさをもつ患者の存在に、まず心を奪われる。
今や先端の科学は、SFもびっくりの様々な技術を開発し、困難な境遇の患者が生きていくこと、時には自宅で独居することに道を開きつつある。周囲の情熱、そして余計なおせっかいにも踏み込んでいく勇気。
シンプルな理論では割り切れない膨大な闘いの先に、患者文化、それぞれの生きようへの深い思索が立ち上ってくる。きっと長い長い年月、考え続けることが必要な領域。この社会には、そういう領域があるのだ。(2015・1)