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January 24, 2015

末期を超えて

ALSは努力すれば勝てる、乗り越えられるという病気ではありません。むしろ自分をオープンにして、人の助けを求めることができた人から生きる道が開かれていくようです。

「末期を超えて」川口有美子著(青土社)

2014年にビル・ゲイツや山中伸弥ら著名人が多数参加した啓蒙活動、「アイスバケツ・チャレンジ」で話題になった難病ALS。過酷な病いにおかされた母を10年以上自宅で介護し、ヘルパー養成や介護派遣事業に携わる著者が、当事者、支援者7人との対話を通じて、希望のありようを問いかける。

24時間の見守りが必要で、食事、移動はおろかコミュニケーションの手段さえ徐々に失われていく。無差別に直面させられる本人はもちろん、家族にとってもその境遇は、想像を絶する厳しさだ。
しかし絶望、諦めに飲み込まれることなく、自ら支援者を育て、行政と掛け合い、国内、海外問わず叱咤激励を惜しまない。強靭な意志と明るさをもつ患者の存在に、まず心を奪われる。
今や先端の科学は、SFもびっくりの様々な技術を開発し、困難な境遇の患者が生きていくこと、時には自宅で独居することに道を開きつつある。周囲の情熱、そして余計なおせっかいにも踏み込んでいく勇気。

シンプルな理論では割り切れない膨大な闘いの先に、患者文化、それぞれの生きようへの深い思索が立ち上ってくる。きっと長い長い年月、考え続けることが必要な領域。この社会には、そういう領域があるのだ。(2015・1)

January 17, 2015

絶叫

「自分ら、捨てられてんねん。表から見えんようにされ、いないことにされとる、見えざる棄民やねん」

「絶叫」葉真中顕著(光文社)

住宅街の単身者用マンションで、女性の遺体が見つかる。刑事・奥貫綾乃は孤独死した鈴木陽子の人生をたどるうち、驚くべき事実に行きあたる。日本ミステリー文学大賞新人賞作家の受賞後第1作を電子書籍で。

家族離散、ワーキングプアとブラック企業、そして生活保護ビジネス。1973年生まれ、団塊ジュニア世代の平凡な女がどう転落していったのか。社会のひずみを容赦ない筆致で描いていて、迫力がある。
一つひとつは3面記事でよく目にする様相の事件だけれど、罠に落ち込む人には落ち込むなりの経緯があって、たいていの悲惨な事件は、被害者、加害者の境遇が絶望的につながりあっている。特にネット右翼の心理あたりが強烈だ。鈴木陽子の人生の折々に差し挟まれる当時のニュースや流行歌が、リアルさを引き立てる。

と、そんな社会派の側面に気を取られていたら、終盤、ミステリー要素に一気に足をすくわれる。鈴木陽子の人生をたどるうち、共鳴していく奥貫の語り手としての存在が、実に巧妙な仕掛けになっていて、見事だ。
すぐ隣にいるかもしれない人物が抱える、深い闇と哀しい覚悟。正邪が混沌とする社会観と、「6本指の男」など鮮やかに映像が浮かぶエンタメ性とのブレンドは、ちょっと桐野夏生を思わせる。(2015・1)

January 13, 2015

マスカレード・ホテル

「私たちはお客様の幸福を祈っています。でも自分たちが無力であることもわかっています。だからこそ、御出発のお客様には、こう声をおかけするのです。お気をつけて行ってらっしゃいませ、と」

「マスカレード・ホテル」東野圭吾著(集英社文庫)

2011年に単行本が出版された新シリーズの1作目。都内で謎に包まれた連続殺人が勃発。次の犯行現場とわかったのは、一流ホテルのコルテシア東京だった。事件を食い止めるため、新田浩介は刑事らしからぬ、すらっとした外見と英語力をかわれてホテルマンに扮し、現場に潜入する。偽装工作の指導役となったのは、責任感の強い優秀なフロントクラーク、山岸尚美だった。

ホテルが舞台だけど、単なるオムニバスのグランドホテル形式ではない。次々に訪れるいわくありげな客たちの様々なアクシデントと人間模様が、メーンの事件の謎解きに繋がっていく緻密な展開だ。相変わらずのリーダビリティの高さで、短い旅行の間に一気読み。

ミステリーというだけでなく、職場の舞台裏を覗き見るお仕事小説の色彩もある。高級バーやパーティー会場など、ホテルは華やかで大人っぽい場所だけれど、スタッフには利用客のどんな我儘も受け止めるといった、苦労も多い。ホテルでは客は仮面をつけている。彼らの事情を受け止めつつ、どうさばくか。
当初は山岸が説く「サービスの本質」に反発する新田も、徐々にその真意を理解していく。価値観の違う若い主役2人が、仕事を通して互いのプライドを認め合う展開は爽やかだ。

映像化も楽しみ。山岸役は水川あさみ、とかかなあ。(2015・1)

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