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December 25, 2014

歌舞伎 家と血と藝

本書は、戦国武将列伝の歌舞伎役者版を描くつもりで書かれる。歌舞伎をあまり観たことのない人にも、あたかも戦国時代の武将たちの興亡のドラマを読むような感覚で読んでいただければ、ありがたい。

「歌舞伎 家と血と藝」中川右介著(講談社現代新書)

クラシック音楽などもカバーする1960年生まれの評論家が、明治からの歌舞伎の「家」の勢力図を解説する。選んだのは、2013年の歌舞伎座新開場こけら落とし公演で主役を務めた役者のいる家7つ。

ここ数年、劇場に足を運ぶようになった素人歌舞伎ファンにとっては、なかなか勉強になる1冊だ。現代では貴族階級はいなくなったけど、歌舞伎役者は擬似的貴族だと著者は指摘する。歌舞伎座の主役の座という「権力」を握るためには、芸の実力、人気はもちろん、政治力が必要であり、その裏付けになるのが門閥という格式なのだそうだ。
まさに戦国武将の世界だ。役者は今やテレビのバラエティーやCMに出演したり、家族まで公開したブログが話題になったり、とても身近な存在だ。むしろそのタレント性を売り物にしている感もある。それなのにいまだに昔ながらの価値観が脈々と生きて、それが国民的合意になっているってことが、とっても不思議。

門閥の歴史をたどるうえでは、個々の芸談よりも「権力」をめぐる栄枯盛衰に重点を置いている。確執やらスキャンダルやら、バックステージに表舞台さながらのドラマが満載なのは期待通り。
もっとも肝心の人間関係があまりに複雑なので、正直、読んでいてかなりこんがらがる。襲名を繰り返して同じ人物の名前がどんどん変わっちゃうし、養子とか部屋子とか、でも実子かもしれないとか、さらに門閥を超えて結婚したり、養子縁組したりが多くて、誰と誰が甥だか孫だか。だからこそ、少しでも歴史を頭に入れて、それぞれの役者が受け継ごうとしている「型」へのこだわりや背負っているものに感情移入できれば、観劇の味わいが増すということなんだろう。そのレベルに到達すると、観る側も深みにはまりそうだな。

というわけで「リアル戦国」は非常に特殊な、閉じた世界のストーリーなのだが、読み進むうちに普遍的な人間社会の要素も浮かんでくる。
家柄が立派な役者で、芸や人気が十分であっても、本人が権力に強く拘泥しなければ、決して長く主役というポストに君臨できない。また本人の力と意欲が十分でも、上の世代がスター揃いだとなかなか主役が回ってこなくて、結局トップに上り詰められない。
だから最近の出来事でいえば、12代目市川団十郎、18代目中村勘三郎という巨星を早く失ったことは、ファンとしてとても残念だけれど、その分、市川海老蔵、尾上菊之助、市川染五郎、中村勘九郎・七之助ら息子の世代にスポットがあたり、彼らの成長がぐんと楽しみになる。宝塚やジャニーズにも一脈通じる完成した興行モデルであり、伝統芸能継承の仕掛けといえるかもしれない。(2014・12)

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