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September 13, 2014

ゼバスチアンからの電話

ゼバスチアンにわたしを連れもどしてほしいとは思わなかった。自分でも不思議だった。だけど、ほんとうに、連れもどしてほしいとは思っていなかった。

「ゼバスチアンからの電話」イリーナ・コルシュノフ著(白水社)

ザビーネは17歳。ボーイフレンドと喧嘩し、芸術家肌の彼に振り回されていた日々に区切りをつける。おりしも家族は父の独断で、ミュンヒェンから田舎町に引っ越すことになり、夫の言いなりだった穏やかな母にも変化が訪れる。

西ドイツの作家が若者向けに描いた青春小説。絶版になっていた翻訳の復刊で、原著の出版は1981年だ。女性の自立や環境保護など、テーマには70年代の香りが濃い。しかし少女から大人への最後の1年という設定には、時代と国を超えて共感できるみずみずしさがある。
進路の選択をめぐる悩み、枠にはめようとする親や教師への反発。そんな思いを友と共有できないもどかしさと、共有できたときの喜び。自分を大切にして、だからこそ周りの人々を大切にできる。日常をたどっていく1人称の語り口は、饒舌過ぎず、知的だ。雪の描写が美しい。石川素子、吉原高志訳。(2014・9)


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