「機械との競争」
CEOの報酬と平均的社員の報酬を比べると、一九九〇年は七〇倍だったのが、二〇〇五年には三〇〇倍に跳ね上がっている。エリックはヒーキュン・キムと行った調査で、この飛躍的な伸びはITの浸透と時を同じくしている、と指摘した。
「機械との競争」エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー著(日経BP社)
技術進歩が雇用を奪う衝撃の現状と、それを認識したうえで将来を切り開く道筋について、MITスローン・スクールの経済学教授と、デジタル・ビジネス・センター主任リサーチサイエンティストが分析した。電子書籍で。
著者は数多くの先行研究をたどり、スキルの高い労働者と低い者の賃金格差が広がっていることや、スーパースターが富を独占する傾向、その背景にテクノロジーがあることなどを明らかにしていく。イエレンFRB議長の「雇用の質」議論にも通じる。
では人間は機械に隷属するのかというと、そうでもない。一九九七年にチェスの名手がIBMのコンピューター「ディープブルー」に敗れたことは、世界に衝撃をもたらしたが、現在世界最強のプレーヤーはコンピューターではなく、コンピューターを使った人間のチーム。競争に勝つ鍵はマシンを味方につけることだ、との主張だ。
そのために何が必要か。例えば教育。アメリカの教育は停滞し、中間的な労働者は最新技術についていけていない。だからこそ改善の余地があると、あくまで前向きなのがアメリカらしいところ。確かに無償公開の講義ビデオを活用して、お仕着せのカリキュラムは生徒が自宅でこなし、学校では教師と相談しながら「宿題」をする、という逆転の発想は面白い。
さらに知恵の共有。パンは食べ終わったらそれで終わり、でも本なら読み終わって友達に貸すことができる。むしろ読み終わった者同士で話し合えるから、価値が高まる。情報がIT化されれば共有も簡単。仕事を奪うのがデジタルなら、その克服を助けるのもまたデジタルなのだ。村井章子訳。解説は小峰隆夫法政大教授。(2014・5)
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