« 「ブラックアウト」「オール・クリア1」「オール・クリア2」 | Main | 「機械との競争」 »

May 10, 2014

オスカー・ワオの短く凄まじい人生

次の日朝食を食べながら母に訊ねた。僕ってブサイク?
母はため息をついた。そうね、確かに私には似てないわね。
ドミニカ人の親たちよ! まさに愛すべき人々!

「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」ジュノ・ディアス著(新潮クレスト・ブックス)

2011年のTwitter文学賞海外編1位をようやく読む。饒舌でスピーディー、読む者をぐいぐい引っ張るマシンガン文体が心地いい。ピュリツァー賞、全米批評家協会賞受賞作。
物語の軸は、ニューヨークのドミニカ移民コミュニティーに住む語り手、ユニオールの青春ストーリーだ。迷惑だけど大切な友達オスカーを救えなかったという深い悔恨、そしてオスカーの姉で、誇り高い美女ロラへの思慕。なぜオスカーはオタクで絶望的にモテないくせに、へこたれず恋愛を求め続けたのか、なぜロラは凛として格好いいのか? バックグラウンドには一家の怒涛の三代記、すなわちドミニカとドミニカ移民の現代史があるのだ。

ドミニカについては正直、全く知識がなかった。お恥ずかしい。イスパニューラ島の東部にあって、国境を接する西部のハイチとはすごく仲が悪いらしい。15世紀末、米州初のヨーロッパ植民地になり、アメリカの軍政期をへて、1930年から30年にわたってはトルヒーヨ将軍の独裁が続いた。徹底した個人崇拝と私物化、暴力と弾圧、秘密警察と密告。オスカーの祖父アベラードと家族は暗黒政治の犠牲となり、ひとり残された娘ベリも、危険な恋に落ちて秘密警察に追われ、米国に逃れるはめになる。壮絶な国家的悲劇と、悲劇を生き抜くタフな女に圧倒されっぱなし。

ラテン男とはとうてい思えない太ったオタク青年、オスカーの造形も鮮やかだ。おバカで情けなくて、切なく愛おしい。全編にSFやファンタジー、アメコミ、RPGといったサブカルのキーワードが散りばめられていて、クラクラしちゃう。もちろん「ガッチャマン」「AKIRA」も普通に登場。アキバのグローバル化って、ここまできてるんですねえ。原注、訳注、スペイン語のルビも満載で、ごった煮感が楽しめます。柴田元幸門下の都甲幸治、久保尚美訳。(2014・4)

« 「ブラックアウト」「オール・クリア1」「オール・クリア2」 | Main | 「機械との競争」 »

Comments

Post a comment

Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.

(Not displayed with comment.)

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference オスカー・ワオの短く凄まじい人生:

« 「ブラックアウト」「オール・クリア1」「オール・クリア2」 | Main | 「機械との競争」 »