オスカー・ワオの短く凄まじい人生
次の日朝食を食べながら母に訊ねた。僕ってブサイク?
母はため息をついた。そうね、確かに私には似てないわね。
ドミニカ人の親たちよ! まさに愛すべき人々!
「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」ジュノ・ディアス著(新潮クレスト・ブックス)
2011年のTwitter文学賞海外編1位をようやく読む。饒舌でスピーディー、読む者をぐいぐい引っ張るマシンガン文体が心地いい。ピュリツァー賞、全米批評家協会賞受賞作。
物語の軸は、ニューヨークのドミニカ移民コミュニティーに住む語り手、ユニオールの青春ストーリーだ。迷惑だけど大切な友達オスカーを救えなかったという深い悔恨、そしてオスカーの姉で、誇り高い美女ロラへの思慕。なぜオスカーはオタクで絶望的にモテないくせに、へこたれず恋愛を求め続けたのか、なぜロラは凛として格好いいのか? バックグラウンドには一家の怒涛の三代記、すなわちドミニカとドミニカ移民の現代史があるのだ。
ドミニカについては正直、全く知識がなかった。お恥ずかしい。イスパニューラ島の東部にあって、国境を接する西部のハイチとはすごく仲が悪いらしい。15世紀末、米州初のヨーロッパ植民地になり、アメリカの軍政期をへて、1930年から30年にわたってはトルヒーヨ将軍の独裁が続いた。徹底した個人崇拝と私物化、暴力と弾圧、秘密警察と密告。オスカーの祖父アベラードと家族は暗黒政治の犠牲となり、ひとり残された娘ベリも、危険な恋に落ちて秘密警察に追われ、米国に逃れるはめになる。壮絶な国家的悲劇と、悲劇を生き抜くタフな女に圧倒されっぱなし。
ラテン男とはとうてい思えない太ったオタク青年、オスカーの造形も鮮やかだ。おバカで情けなくて、切なく愛おしい。全編にSFやファンタジー、アメコミ、RPGといったサブカルのキーワードが散りばめられていて、クラクラしちゃう。もちろん「ガッチャマン」「AKIRA」も普通に登場。アキバのグローバル化って、ここまできてるんですねえ。原注、訳注、スペイン語のルビも満載で、ごった煮感が楽しめます。柴田元幸門下の都甲幸治、久保尚美訳。(2014・4)
« 「ブラックアウト」「オール・クリア1」「オール・クリア2」 | Main | 「機械との競争」 »
Comments