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May 14, 2014

「機械との競争」

CEOの報酬と平均的社員の報酬を比べると、一九九〇年は七〇倍だったのが、二〇〇五年には三〇〇倍に跳ね上がっている。エリックはヒーキュン・キムと行った調査で、この飛躍的な伸びはITの浸透と時を同じくしている、と指摘した。

「機械との競争」エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー著(日経BP社)

技術進歩が雇用を奪う衝撃の現状と、それを認識したうえで将来を切り開く道筋について、MITスローン・スクールの経済学教授と、デジタル・ビジネス・センター主任リサーチサイエンティストが分析した。電子書籍で。

著者は数多くの先行研究をたどり、スキルの高い労働者と低い者の賃金格差が広がっていることや、スーパースターが富を独占する傾向、その背景にテクノロジーがあることなどを明らかにしていく。イエレンFRB議長の「雇用の質」議論にも通じる。
では人間は機械に隷属するのかというと、そうでもない。一九九七年にチェスの名手がIBMのコンピューター「ディープブルー」に敗れたことは、世界に衝撃をもたらしたが、現在世界最強のプレーヤーはコンピューターではなく、コンピューターを使った人間のチーム。競争に勝つ鍵はマシンを味方につけることだ、との主張だ。

そのために何が必要か。例えば教育。アメリカの教育は停滞し、中間的な労働者は最新技術についていけていない。だからこそ改善の余地があると、あくまで前向きなのがアメリカらしいところ。確かに無償公開の講義ビデオを活用して、お仕着せのカリキュラムは生徒が自宅でこなし、学校では教師と相談しながら「宿題」をする、という逆転の発想は面白い。
さらに知恵の共有。パンは食べ終わったらそれで終わり、でも本なら読み終わって友達に貸すことができる。むしろ読み終わった者同士で話し合えるから、価値が高まる。情報がIT化されれば共有も簡単。仕事を奪うのがデジタルなら、その克服を助けるのもまたデジタルなのだ。村井章子訳。解説は小峰隆夫法政大教授。(2014・5)

May 10, 2014

オスカー・ワオの短く凄まじい人生

次の日朝食を食べながら母に訊ねた。僕ってブサイク?
母はため息をついた。そうね、確かに私には似てないわね。
ドミニカ人の親たちよ! まさに愛すべき人々!

「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」ジュノ・ディアス著(新潮クレスト・ブックス)

2011年のTwitter文学賞海外編1位をようやく読む。饒舌でスピーディー、読む者をぐいぐい引っ張るマシンガン文体が心地いい。ピュリツァー賞、全米批評家協会賞受賞作。
物語の軸は、ニューヨークのドミニカ移民コミュニティーに住む語り手、ユニオールの青春ストーリーだ。迷惑だけど大切な友達オスカーを救えなかったという深い悔恨、そしてオスカーの姉で、誇り高い美女ロラへの思慕。なぜオスカーはオタクで絶望的にモテないくせに、へこたれず恋愛を求め続けたのか、なぜロラは凛として格好いいのか? バックグラウンドには一家の怒涛の三代記、すなわちドミニカとドミニカ移民の現代史があるのだ。

ドミニカについては正直、全く知識がなかった。お恥ずかしい。イスパニューラ島の東部にあって、国境を接する西部のハイチとはすごく仲が悪いらしい。15世紀末、米州初のヨーロッパ植民地になり、アメリカの軍政期をへて、1930年から30年にわたってはトルヒーヨ将軍の独裁が続いた。徹底した個人崇拝と私物化、暴力と弾圧、秘密警察と密告。オスカーの祖父アベラードと家族は暗黒政治の犠牲となり、ひとり残された娘ベリも、危険な恋に落ちて秘密警察に追われ、米国に逃れるはめになる。壮絶な国家的悲劇と、悲劇を生き抜くタフな女に圧倒されっぱなし。

ラテン男とはとうてい思えない太ったオタク青年、オスカーの造形も鮮やかだ。おバカで情けなくて、切なく愛おしい。全編にSFやファンタジー、アメコミ、RPGといったサブカルのキーワードが散りばめられていて、クラクラしちゃう。もちろん「ガッチャマン」「AKIRA」も普通に登場。アキバのグローバル化って、ここまできてるんですねえ。原注、訳注、スペイン語のルビも満載で、ごった煮感が楽しめます。柴田元幸門下の都甲幸治、久保尚美訳。(2014・4)

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