上京する文學
どうせ、もともと他府県からの寄せ集まりでできた「東京」。誰に何を言われようがかまわない。いや、誰にも何とも言われる筋合いさえない。そう考えたとき、「東京」が急に自由だと感じられるだろう。林芙美子はそうして生きた。
「上京する文學」岡崎武志著(新日本出版社)
漱石から春樹まで、書評家兼古本ライターが「上京」という角度から綴るユニークな作家論を集めた。
明治期に東京に移り住むのは、今でいう海外留学ほどのインパクトだったのだろうか。たとえば石川啄木は短い生涯の間、何とかして文学で身を立てようと、繰り返し上京した。その歌には交通機関や著名なランドマークなど、「よそ者が発見した都市」の姿が数多く詠み込まれているという。著者はそんな詩人の心性に、なぜか九州出身者が目立った70年代のフォークシーンと重ね合わせて、家や故郷を捨てた若者の高揚と屈折を見いだしていく。
ほかにも松本清張には、東京人でないからこそ描けた首都の負の側面があるとか、村上春樹が上京して初めて一人暮らしをして、独特の気障な「一人っ子」節に磨きがかかったのではないかとか、興味が尽きない分析が満載だ。自筆のイラストがユーモラス。
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