去年の冬、君と別れ
この世界にいる人間は、多かれ少なかれ、復元されてるんじゃないだろうか?
「去年の冬、君と別れ」中村文則著(幻冬舎)
とっても格好良かった2009年の「掏摸」。英訳され、ウオール・ストリート・ジャーナルの2012年ベストミステリー10作に入って話題にもなりました。本作は再び、淡々とした読みやすい筆致だけれど、なかなか一筋縄でいかないミステリーだ。
物語はあるライターが取材のため、死刑判決を受けた男と接見するところから始まる。となると、シリアルキラーの内面を探る犯罪心理ものか、はたまた美女と人形という道具立てから乱歩風の猟奇ものなのか?などと思って読み進んでいると、見事に裏切られる。
曲者は、一人称の語りだろう。加害者はもとより、被害者、その関係者… この事件でいったい誰が、何の役割を果たしているのか。どんどん混沌としていく展開のなかからやがて、いびつな欲望と報復の構図が明らかになっていく。伏線が実に緻密だ。
興味深いのは伝説の人形師に、失った人そっくりの人形をオーダーするといった、「本物を復元して、その複製に執着する」という人間心理を軸にしていること。一見異常なエピソードなんだけど、実はストーカーとか熱狂的なアイドルファンとか、とても身近で現代的なところにあるものだと気づかされて、ぞっとする。
どんでん返しがちょっと懲りすぎていて、正直「掏摸」ほどには、スタイリッシュな緊迫感は味わえないかもしれない。とはいえ、細い彫刻刀で削り込んでいくような独特の世界は健在だ。これからも要注目の作家です。
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