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March 06, 2014

去年の冬、君と別れ

この世界にいる人間は、多かれ少なかれ、復元されてるんじゃないだろうか?

「去年の冬、君と別れ」中村文則著(幻冬舎)

とっても格好良かった2009年の「掏摸」。英訳され、ウオール・ストリート・ジャーナルの2012年ベストミステリー10作に入って話題にもなりました。本作は再び、淡々とした読みやすい筆致だけれど、なかなか一筋縄でいかないミステリーだ。

物語はあるライターが取材のため、死刑判決を受けた男と接見するところから始まる。となると、シリアルキラーの内面を探る犯罪心理ものか、はたまた美女と人形という道具立てから乱歩風の猟奇ものなのか?などと思って読み進んでいると、見事に裏切られる。
曲者は、一人称の語りだろう。加害者はもとより、被害者、その関係者… この事件でいったい誰が、何の役割を果たしているのか。どんどん混沌としていく展開のなかからやがて、いびつな欲望と報復の構図が明らかになっていく。伏線が実に緻密だ。

興味深いのは伝説の人形師に、失った人そっくりの人形をオーダーするといった、「本物を復元して、その複製に執着する」という人間心理を軸にしていること。一見異常なエピソードなんだけど、実はストーカーとか熱狂的なアイドルファンとか、とても身近で現代的なところにあるものだと気づかされて、ぞっとする。
どんでん返しがちょっと懲りすぎていて、正直「掏摸」ほどには、スタイリッシュな緊迫感は味わえないかもしれない。とはいえ、細い彫刻刀で削り込んでいくような独特の世界は健在だ。これからも要注目の作家です。

March 05, 2014

上京する文學

どうせ、もともと他府県からの寄せ集まりでできた「東京」。誰に何を言われようがかまわない。いや、誰にも何とも言われる筋合いさえない。そう考えたとき、「東京」が急に自由だと感じられるだろう。林芙美子はそうして生きた。

「上京する文學」岡崎武志著(新日本出版社)

漱石から春樹まで、書評家兼古本ライターが「上京」という角度から綴るユニークな作家論を集めた。
明治期に東京に移り住むのは、今でいう海外留学ほどのインパクトだったのだろうか。たとえば石川啄木は短い生涯の間、何とかして文学で身を立てようと、繰り返し上京した。その歌には交通機関や著名なランドマークなど、「よそ者が発見した都市」の姿が数多く詠み込まれているという。著者はそんな詩人の心性に、なぜか九州出身者が目立った70年代のフォークシーンと重ね合わせて、家や故郷を捨てた若者の高揚と屈折を見いだしていく。
ほかにも松本清張には、東京人でないからこそ描けた首都の負の側面があるとか、村上春樹が上京して初めて一人暮らしをして、独特の気障な「一人っ子」節に磨きがかかったのではないかとか、興味が尽きない分析が満載だ。自筆のイラストがユーモラス。

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