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February 01, 2014

愛しいひとにさよならを言う

遠くから見たら、それまで見えていたものが違って見えることがあるからだよ。それから、ほんとうのことは時間が経たないとわからないこともあるっていうことを、パリからきみは教わるかもしれないと思って。チャンスがあるなら、若いうちに、何度でも遠くに行ったほうがいい。ぼくはそう思ってるし、そうしてきた。

「愛しいひとにさよならを言う」石井睦美著(角川春樹事務所)

未婚のまま「わたし」を産み、絵画の修復をしながら育てた母。たまたま近所に住んでいて、家族同然に母娘の面倒をみたユキさん。そして母のかけがえのない友人で、苦しいときに手を差し伸べる建築家の穣さん。「いつか」という前向きな名前をもつ18歳の少女が、愛しいひととの出会いと別れを、みずみずしく語る。

「わたし」の世界は、決して広くない。生まれる前から父親は不在で、母が祖母と折り合いが悪く、実家とは疎遠のまま育った。いちばんの友達の彩音ちゃんは、著名音楽家の両親のもとで大人っぽく育ち、中学にあがるとピアニストを目指して遠くへ旅立った。
しかし「わたし」の幼い日々には温かさが満ちている。母の芸術的情熱と、ユキさんの飾り気ない愛情。だからたとえ孤独でも、つつましくても、決してひがんだりしない。少女の成長過程を丹念に描くことで、いったい何が感受性の強いひとりの女性をかたち作り、そして何が人間関係の辛さ、悲しみを乗り越えていく力となるのかが、じっくりと伝わってくる。

少し美しすぎる気もするけれど、ひょっとするとセンスのある生き方を目指す少女たちにとって、理想の姿といえるかもしれない。この透明感、著者が1957年生まれというのが驚きだ。(2014・1)

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