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January 19, 2014

海外ミステリーマストリード100

本書は文章だけに許された表現を用いた、「小説の中の小説」と言うにふさわしい作品だとも言える。お読みいただいた方には必ずや賛同していただけることと思う。この物語を別の表現形式で描くことは不可能だからである。

「海外ミステリーマストリード100」杉江松恋著(日経文芸文庫)

「翻訳ミステリー大賞シンジケート」などで知られる書評家のミステリーガイド。だいたいブックガイドというやつは、手持ちの本が1冊増えて、さらに読みたい本が大量に増えてしまうという、本好きにとっては危険極まりないジャンルだ。実は本書についても、事前にその危険性について重々警告を受けてはいたけど、思わず買ってしまって案の定、泥沼にはまった感じがしている。あ~、私が読んでいない面白い本がこんなにたくさんあるのに、時間が足りないぞ!

350ページと手ごろな分量に、情報がぎっしり。第1部では2013年時点で新刊が手に入るものに絞って、1929年の「毒入りチョコレート事件」から2010年「二流小説家」まで、原書刊行順に100冊を紹介。1作わずか3ページなのに、あらすじ、おもしろポイント、シリーズ作品などの解説に加えて、類書を数冊ずつ挙げている。さらに第2部では、第1部で涙を飲んで割愛した古典やら、新刊が手に入りにくい名作やらをリコメンド。著者の膨大な読書量には、恐れ入るしかない。

本格から探偵もの、冒険もの、伝奇などなど、ジャンルの議論に深入りせず、ミステリーというものの幅広さ、懐の深さを示している。そんな本書の姿勢には深く共感。個人的に、面白いエンタテインメントには、たいがいミステリーの要素があると雑駁に捉えているから。ただただ、面白本が好きで、おススメしたいという熱さ、歯切れの良さが心地よい。新文庫シリーズ創刊の1冊。(2014・1)

January 11, 2014

謎の独立国家ソマリランド

 道の真ん中にドラム缶が四本立てられ、腰巻き姿の民兵が銃を持ってうろうろしている。
 これが「国境」だった。

「謎の独立国家ソマリランド」高野秀行著(本の雑誌社)

遠く「アフリカの角」に位置する紛争地帯ソマリアで、国連などに頼らずに内戦を終結させ、20年も平和と民主主義を維持している地域がある。国際的には認められていない自称「国家」ソマリランド。アニメ「ラピュタ」を思わせるけれど実在の「国」が、いったいどう実現したのか。早大探検部在籍中にデビューした筋金入りの冒険者による、面白すぎるノンフィクションを読んだ。

500ページもの分厚さなのに、軽妙なタッチですいすい読める。現地の情勢を知るには、氏族の対立関係を理解することが必須だけど、固有名詞を覚えるのは至難の業。そこで著者は氏族や指導者に源平、戦国武将の「あだ名」をつけて解説している。北部に住むのは「イサック奥州藤原氏」、旧ソマリア時代に栄華を極めたのは「ダロッド平氏」、平氏から都を奪い返したのが「ハウィエ源氏」といった具合で、実にわかりやすい。
しかもソマリア現代史は、あだ名がしっくり感じられるほどの群雄割拠ぶり。東部のプントランドでは海賊が跋扈し、南部ソマリアはイスラム原理主義勢力もからんで内戦状態が続く。残念ながら世に紛争地帯数多いとはいえ、改めてネットとグローバルの現代に存在する「リアル戦国」の事実が衝撃だ。

2009、2011年の2度にわたって現地にわたり、直接観て聴いてまわる著者の姿勢がたいそう刺激的。旅立ちの冒頭から、ソマリランド「独立の英雄」が意外に千葉に住んでいたり、到着して紹介された大統領スポークスマンについて、ダメもとと思いつつホテルのフロントで尋ねたらあっさり携帯電話番号を教えてくれたり、何がどうなっているのやら、もう驚きの連続。
しかもソマリ人はめっぽう気が短く、人の話を聞かず、カネにがめつい。著者は言葉を覚え、打ち解けるためカートの「葉っぱ」を齧りながら、およそ日本人の文化とは対極といえそうな遊牧民の間に、ずかずか入り込んでいく。

自費をつぎこみ、危険な目にもあいつつ苦労して取材しても、本が売れなければ水の泡だ。焦りとカート酔いのあまり、海賊取材のため自分で海賊船を仕立てることを思いつき、費用を「見積もり」してみるくだりなんか、最高に面白い。もちろん実行はしないんだけど、相談するとすいすい見積もりが出てきて、海賊の実態を理解しちゃう。そんなふうにして社会の基盤たる氏族の仕組み、争いを乗り越える「賠償の掟」の仕組み、いろんなことが明らかになっていく。

肝心の「地上のラピュタ」実現の謎については、ぜひ本書を読んでほしい。著者の立場は正直、かなりソマリランドの存続に肩入れしていると思う。とはいえソマリランドの存在が、欧米の大国や国際社会がいくら介入しても実現できないことがある平和と民主主義、あるいは国家の成り立ちというものを考えさせることは、間違いない。(2014・1)

 

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