微生物ハンター深海を行く
なぜそんなに都合よく一瞬で気持ちを切り替えられるのか、自分でもわからない。でも、自分の負けをしっかりと噛み締めたときにこそ不思議とそれに立ち向かう元気と勇気が、カラダの奥底からフツフツと湧いてくることはこれまでにも何度も経験していた。このときもそうだった。
「微生物ハンター深海を行く」高井研著(イースト・プレス) 9784781610061
1969年生まれの生物学者が、軽妙な筆致で足跡を綴ったエッセイ。専門は深海など極限環境に生きる微生物の研究で、生命誕生の謎に迫るという壮大なものだ。そんなイメージから、びっくりの生物が次々登場する痛快科学読み物かと思ったら、そういう趣旨では他に著書があり、こちらは一人の研究者が成長していく青春ストーリーでした。
相手が権威ある大先輩でも、世界的に著名な一流の学者でも、ライバルだと思えば激しく闘争心を燃やす。新しい発想で学際的な研究を手がけていくため、アポ無しで上司に直訴する。そばにいたら、ちょっと迷惑な振る舞いなのだろうけれど、終身雇用ではない若手の研究者が理想の研究環境を求め、道を切り開いていくには、必要なエネルギーなのだろう。
目標を定め、その実現のため周囲を巻き込んでいく格好良さと同時に、海外留学中の珍経験など、恥ずかしい過去も告白している。全力で後輩の科学者を励ましたい、という情熱に、好感が持てる。(2013・10)
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