楽しい古事記
ヤマトタケルの伝承が各地に残っているのも、その成立の経緯を考えれば納得のいくことである。エピソードは諸国から集められ、白鳥となって諸国へ飛び帰って行ったわけである。
「楽しい古事記」阿刀田高著(角川文庫) ISBN 9784041576236
式年遷宮のお伊勢さん参りを前に、神話の世界を覗き見る。作家が古典を易しく読み解いたシリーズの一冊だ。
古事記は712年に成立した日本初の歴史書で、律令国家が成立したころ、朝廷の正当性や時の有力な一族の来歴を確かなものにする目的で編まれたとされる。しかし著者は議論百出の史実の探究とかはどんどん省いて、物語としての楽しさに的を絞って紹介している。
ギリシャ神話のように人間くさい、神々による大らかな国造り。あるいは英雄ヤマトタケルの悲劇、ストレートに思いを伝える歌の数々。正直、現代人にとって面白いエピソードばかりではないけれど、改めて古代人の豊かなイマジネーションに触れる思いだ。
著者はまた、伝承の舞台とされる土地をあちこちたずね歩いている。偶然出会う地元の人が、ごく自然に古事記のエピソードを口にしたり、あるいは全く知らなかったり。思い入れ過ぎずに、どこか淡々と、突き放した筆致に好感が持てる。(2013・9)
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