想像ラジオ
世界が悪い方に向がわねように、草助は嫌な言葉を聞ぐ度にくるっと体を回して、言ってみれば未来を変えでるんだ。
「想像ラジオ」いとうせいこう著(河出書房新社) ISBN 9784309021720
著者16年ぶりの長編を電子書籍で。震災の犠牲者の思いがこの世に残り、ラジオパーソナリティとなって人々の想像に届く「放送」を始める物語だ。芥川賞候補としても話題になった。
あまりにリアルな震災の悲劇と、軽妙なDJ口調がミスマッチで、正直、中盤までは読んでいてしっくりこなかった。そういう読者は、決して少なくないと思う。
著者の姿勢が真摯であることは疑いない。おしゃべりが聞こえるかどうか、聞こえることを認めるかどうか。当事者でない者、さしたることもできずにいる者の関わり方を問いかける。簡単に答えは出せないだろう。それを十分自覚し、悩んだり絶望したりしながらも、書かずにはいられなかったのではないか。
DJアークはリスナーから届く、些細で大切な日常を伝えていく。終盤、アーク自身が回想する息子・草助の子供時代のエピソードが美しい。(2013・8)
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