街道をゆく8 熊野・古座街道、種子島みちほか
熊野・古座川筋のKさんの村では、かつて日本の村のほとんどがそうであったように、家々は戸締りはしなかった。泥棒など入らないからだが、もし仮に戸締りなどをすれば若衆に迷惑がかかるのである。
「街道をゆく8 熊野・古座街道、種子島みちほか」司馬遼太郎著(朝日文庫) ISBN 9784022644473
春、熊野に足を運んだのをきっかけに、あまりにも有名な紀行シリーズの1冊を手にとった。
著者が熊野を旅したのは1970年代の「翔ぶが如く」執筆中。西南戦争勃発のベースとなったのが鹿児島の私学校で、それに通じる土壌を南方の「若衆組」に見ていたからだという。昨今のいわゆる「巡礼プラス観光」としての熊野像とは視点が異なるが、土地に息づく社会と風土に関する思索は刺激的だ。
いつもながら筆致が明るくて、闊達さを愛する雰囲気も読んでいて心地良い。収穫を急がず、気まま、のんびりとウロウロしているようでいて、しっかり観察している。ほかに、それぞれ独特の文化を味わう「豊後・日田街道」「大和丹生川(西吉野)街道」「種子島みち」を収録。(2013・6)
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