双頭のバビロン
双頭のバビロン? 口にするな。せっかく押さえつけて箱に詰め、錠前をかけたのだ。
「双頭のバビロン」皆川博子著 東京創元社 ISBN 9784488024932
帝政末期のウイーン、ボヘミアから無声映画時代のハリウッド、さらに猥雑な上海へ。わけあって幼いうちに引き離された双子のゲオルク、ユリアンの兄弟と、2人の人生に寄り添うツヴェンゲルの流転の運命を綴る。
1930年生まれというベテラン作家の長編を初読み。章によって語り手の視点を変えつつ、2段組み、530ページ強をぐいぐい引っ張っていく。感動するという感覚とは違うのだけど、緻密な物語を2年以上にわたって紡ぎきる気力には、まずもって脱帽だ。
幻想小説であり、歴史小説でもあり、ところどころハードボイルドな場面もあって、多彩な味わいが贅沢。なかでもアメリカ映画界黎明期の、内幕もの風のくだりが興味をそそる。シュトロハイム(「サンセット大通り」の執事ですね)に想を得たというゲオルクの存在感がリアルだ。
そのうえ美少年、手品めいた超能力、古城といった、妄想アイテムも盛りだくさん。つくづくサービス精神が豊富な作家だなあ。このへんは好みが分かれると思うけど、好きな人にはたまらないでしょう。
全編で一本筋を通しているのが記憶の錯綜、混濁という謎。これがラストまで読み手を幻惑する。(2013・5)
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