わたしがいなかった街で
日々の中にあることが、ばらばらに外れてきた。
長い間そうだったが、このところ特にまとまらない感じがする。
「わたしがいなかった街で」柴崎友香著(新潮社) ISBN 9784103018322
2010年、「わたし」は36歳。離婚したばかりで、契約社員として働きながら、東京にひとり暮らししている。どちらかというと不器用で、人付き合いが苦手。戦時中の作家の日記を読んだり、テレビのドキュメント番組を観たりして、時間や距離を隔てた戦争のことを思い浮かべてばかりいる。
無彩色の日常から地続きのところに、かつて圧倒的な暴力や苦しみがあった。そんな不思議さをずうっと抱えている、わたし。とても読みやすいのだけれど、特別な人物は登場しないし、事件も起こらないちょっと掴みどころのない文章から、居心地の悪さがしみ出す。
誰かと関わっても、ずっと会わずにいたら死んでしまった人と同じなのか。いや、私がいつか会えるかもしれないと思い続けるなら、その誰かは死んでしまった人とは違う、というフレーズが印象的だ。自他の存在とか、「つながる」というフレーズの、なんと不確かなことか。それでも決してシニカルにはなっていない。読み進むうち、現代を生きるささやかな普通人の感覚が胸に広がっていく。
わたしのモノローグの間にあまり脈絡なく、行方不明の知人の、大阪に住む妹という女性の日常が紛れ込む。終盤になって、その妹が偶然目にする光景の鮮やかさに、不意をつかれた。なかなか一筋縄でいかない作家さんです。短編「ここで、ここで」を同時収録。電子版で。(2013・5)
« 双頭のバビロン | Main | 街道をゆく8 熊野・古座街道、種子島みちほか »
Comments