とうざい
「東西。とーうざい」
繰り返しながら黒衣が引っ込んだ刹那、正太夫と幹右衛門の気配が、がらりと変わった。
正太夫の小さな身体が、ずいと膨らんだ。
「とうざい」田牧大和著(講談社) ISBN 9784062182195
木挽町の浄瑠璃小屋・松輪座。大阪からひとりのご隠居が訪ねてきて以来、妙な事件が相次ぐようになる。「三悪人」や歌舞伎シリーズの時代作家が、ついにものした江戸の「文楽ミステリー」。
舞台を支える太夫、三味線、人形それぞれの魅力をふんだんに折り込んでいて楽しい。舞台のいきいきとした緊迫感や高揚感。登場人物はどなたかモデルがいそうな感じだ。気が優しくて少し頼りない竹本雲雀太夫が成長していくさまが、思わず応援したくなる。座元はあたりをとるためには手段を選ばない御仁で、そのワルぶりもいいコントラストだ。
つまりは芸に賭ける者の真摯さ、そして師弟の深い関係が軸。一方で人形遣い・八十次郎の冷静な色男ぶり、そして騒動の謎解きの驚きは道半ばという気もするけれど。シリーズものになるのかな。それにしても劇中劇の形をとっている「浜千鳥」が観てみたい。(2013・3)
« ソロモンの偽証 | Main | きょうの絵本あしたの絵本 »
Comments