質草破り
しばらく聞き入り、うん、やっぱりだと、ひとつ頷いた。
役者のうなじをぞくぞくさせる、いい三味線だ。
「質草破り 濱次お役者双六二ます目」田牧大和著(講談社文庫) ISBN 9784062773232
女形・濱次が移り住んだ神田須田町、何やら訳ありの「烏鷺入長屋」。家主で質屋のおるいは、あろうことか芝居者嫌いで、訪れた三味線弾き・豊路に質草として、ある「芸」を要求する。
田牧さんの江戸芝居ものを連続して読んだ。才能があるのにのんびりしていて、母性本能をくすぐる濱次の成長譚だが、相変わらず濱次のみならず、取り巻く人々のキャラが際立っている。ダメ男だがプロ意識をもつ奥役・清助や、人物が大きい師匠・仙扇、長屋の面々…。出番の少ない帳元・与平もいい味だ。
今回の騒動の中心は美人で気の強いおるいと、ひねくれ者豊路の因縁。背景には豊路が抱える芸の悩みがあり、歌舞伎、人形浄瑠璃における三味線の位置づけがキーになっている。著者らしい、伝統芸能好きを喜ばす仕掛けだ。
リズミカルな芝居者たちの江戸言葉が心地良い。登場人物の思惑の絡み合いは読み応えがあるけど、ちょっと複雑過ぎるかな。文庫書き下ろし。(2013・4)
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