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April 07, 2013

質草破り

 

しばらく聞き入り、うん、やっぱりだと、ひとつ頷いた。
 役者のうなじをぞくぞくさせる、いい三味線だ。

「質草破り 濱次お役者双六二ます目」田牧大和著(講談社文庫) ISBN 9784062773232

女形・濱次が移り住んだ神田須田町、何やら訳ありの「烏鷺入長屋」。家主で質屋のおるいは、あろうことか芝居者嫌いで、訪れた三味線弾き・豊路に質草として、ある「芸」を要求する。

田牧さんの江戸芝居ものを連続して読んだ。才能があるのにのんびりしていて、母性本能をくすぐる濱次の成長譚だが、相変わらず濱次のみならず、取り巻く人々のキャラが際立っている。ダメ男だがプロ意識をもつ奥役・清助や、人物が大きい師匠・仙扇、長屋の面々…。出番の少ない帳元・与平もいい味だ。
今回の騒動の中心は美人で気の強いおるいと、ひねくれ者豊路の因縁。背景には豊路が抱える芸の悩みがあり、歌舞伎、人形浄瑠璃における三味線の位置づけがキーになっている。著者らしい、伝統芸能好きを喜ばす仕掛けだ。
リズミカルな芝居者たちの江戸言葉が心地良い。登場人物の思惑の絡み合いは読み応えがあるけど、ちょっと複雑過ぎるかな。文庫書き下ろし。(2013・4)

April 06, 2013

きょうの絵本あしたの絵本

相手が人間だと、なかなか心を開けない人見知りでも、絵本は人を油断させますね。ページも少ないし、文も短いし、平仮名ばっかり。構えず無防備に読むものだから、不意を突かれ、感情を揺さぶられ、未知の感覚にうろたえることも。

「きょうの絵本あしたの絵本」広松由希子著(文化出版局) ISBN 9784579304431

2001年から2012年に様々なメディアで紹介した新作絵本、実に3000冊もの中から、選りすぐり262冊をまとめた1冊。何しろ好きで、勧めたい!という思いが濃縮されている。
ぱらぱらめくるだけで、カラフルで楽しい。発刊年ごとの本を、さらにテーマで括ってあり、「日本再発見」とか「少年」とかのテーマはさもありなんだけど、なかには「飛ぶ!」と題してどーんと豚の絵本があったりしてユニーク。全編にあふれるイマジネーションの幅広さ、自由さに圧倒される。(2013・3)

April 05, 2013

とうざい

「東西。とーうざい」
 繰り返しながら黒衣が引っ込んだ刹那、正太夫と幹右衛門の気配が、がらりと変わった。
 正太夫の小さな身体が、ずいと膨らんだ。

「とうざい」田牧大和著(講談社) ISBN 9784062182195

木挽町の浄瑠璃小屋・松輪座。大阪からひとりのご隠居が訪ねてきて以来、妙な事件が相次ぐようになる。「三悪人」や歌舞伎シリーズの時代作家が、ついにものした江戸の「文楽ミステリー」。

舞台を支える太夫、三味線、人形それぞれの魅力をふんだんに折り込んでいて楽しい。舞台のいきいきとした緊迫感や高揚感。登場人物はどなたかモデルがいそうな感じだ。気が優しくて少し頼りない竹本雲雀太夫が成長していくさまが、思わず応援したくなる。座元はあたりをとるためには手段を選ばない御仁で、そのワルぶりもいいコントラストだ。

つまりは芸に賭ける者の真摯さ、そして師弟の深い関係が軸。一方で人形遣い・八十次郎の冷静な色男ぶり、そして騒動の謎解きの驚きは道半ばという気もするけれど。シリーズものになるのかな。それにしても劇中劇の形をとっている「浜千鳥」が観てみたい。(2013・3)

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