解錠師
ぼくはまだ学んでいなかった。特技には許されざるものもあるということを学んでいなかった。
少しも。
「解錠師」スティーヴ・ハミルトン著(ハヤカワ・ポケット・ミステリ) ISBN: 9784150018542
幼いときに遭遇したある事件によって、声を失ったマイク。孤独に過ごしていたが、高校に入って2つの才能を開花させる。絵を描くこと、そして錠を開けること。
「このミス」「文春」のランキングでダブル1位に輝いたのも納得の感動作だ。タランティーノばりのバイオレンスでドキドキさせつつ、みずみずしい青春小説でもある。主人公の回想という形をとり、芸術的な金庫破り(ロック・アーティスト)の技を身につけた経緯と、その後、アメリカ中を渡り歩いて仕事を請け負うようになった日々という二つの時制を行きつ戻りつしながら語っていく。けっこう複雑な構成なんだけど、リズムの良さで引き込まれる。
主人公が声を奪われているだけに、言いたいことが言えなくて、なんとももどかしい。でも、そのもどかしさってハイティーンなら誰しも少しは思いあたる感覚ではないだろうか。癒えない傷、金庫破りのひりつく緊張感、そして運命的な恋の切なさ。胸に抱え込んだ思いが絵筆を手にした途端、生き生きと解き放たれるシーンが、なんとも鮮やかだ。少年はいかにして、自らを閉じこめてしまった錠を解き放ったか? 越前敏弥訳。(2013・3)
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