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March 23, 2013

ソロモンの偽証

「橋田君は今も、やってないって言ってるんだ……」
 ゆっくりと噛み締めるつもりで、涼子は呟いた。橋田君はやってない。この言葉は、噛んだらどんな歯ごたえと味がするだろう。
 わからない味だった。「わからない」という言葉の味わい。

「ソロモンの偽証」宮部みゆき著(新潮社) ISBN: 9784103750109 ISBN: 9784103750116 ISBN: 9784103750123

雪のクリスマスの朝。城東第三中学校で一人の男子生徒が遺体で発見される。相次ぐ事件、匿名の告発状と衝撃的なテレビ報道。振り回され、傷ついた生徒たちは中三の夏の課外活動で、1週間の陪審制の法廷を開いて、真相を知ろうと決意するーー。

第1部「事件」、第2部「決意」、第3部「法廷」の分厚い3分冊で計2100ページ超をようやく読了した。2012年の各種ベストはどたんばで「64」にさらわれたけれど、これほどのボリュームを書ききっちゃう著者の力技は、それだけで十分事件だ。登場人物一人ひとりの人物、背景を丁寧に掘り下げながら、10年の時間をかけても決してぶれない、宮部節の神髄が全開。
いじめや自殺という題材のタイムリーさが注目されたけど、舞台設定は1990年、連載スタートは2002年なんだから、もちろん2012年を意識したストーリーではない。それでも時代性をはらんでしまうのは、この作家ならではの才能かも。

個人的には学園ものは苦手だ。優等生、人気者といったいかにもなキャラクターが出てくると、こそばゆく感じてしまう。本作でも、そういう要素は否めない。そもそも疑似裁判という設定がわざとらしいし、どうみたってこの14歳たちの明晰さは出来過ぎ。ミステリーとしての意外感も薄いかもしれない。
だけど物語には、そういうマイナスを吹き飛ばす強い牽引力がある。少年少女たちの一筋縄でいかない造形と、彼らを突き動かし、やがて周囲を巻き込んでいく真摯さ。タイトルのソロモンは知恵の王だ。時間をかけて考えに考え抜いた末、ひとつの罪が正体を現す。それは、わからずにいること、知ろうとしないことの罪。読む者も思わず胸に手を置いちゃう。重い結末に、一筋の光が差し込む。(2013・3)

March 13, 2013

解錠師

ぼくはまだ学んでいなかった。特技には許されざるものもあるということを学んでいなかった。
 少しも。

「解錠師」スティーヴ・ハミルトン著(ハヤカワ・ポケット・ミステリ) ISBN: 9784150018542

幼いときに遭遇したある事件によって、声を失ったマイク。孤独に過ごしていたが、高校に入って2つの才能を開花させる。絵を描くこと、そして錠を開けること。

「このミス」「文春」のランキングでダブル1位に輝いたのも納得の感動作だ。タランティーノばりのバイオレンスでドキドキさせつつ、みずみずしい青春小説でもある。主人公の回想という形をとり、芸術的な金庫破り(ロック・アーティスト)の技を身につけた経緯と、その後、アメリカ中を渡り歩いて仕事を請け負うようになった日々という二つの時制を行きつ戻りつしながら語っていく。けっこう複雑な構成なんだけど、リズムの良さで引き込まれる。

主人公が声を奪われているだけに、言いたいことが言えなくて、なんとももどかしい。でも、そのもどかしさってハイティーンなら誰しも少しは思いあたる感覚ではないだろうか。癒えない傷、金庫破りのひりつく緊張感、そして運命的な恋の切なさ。胸に抱え込んだ思いが絵筆を手にした途端、生き生きと解き放たれるシーンが、なんとも鮮やかだ。少年はいかにして、自らを閉じこめてしまった錠を解き放ったか? 越前敏弥訳。(2013・3)

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