永遠の0(ゼロ)
私は想像してみました。ある昼下がり、縁側に座っている私、そこに孫が来て、おじいちゃん、何か話をしてってせがむ。そしてそんな孫に向かって「おじいちゃんは、昔、南の島で戦争をしていたんだよ……」と語る自分を--。
「平和な国になっていたらいいですね」
思わず呟いた自分の言葉に驚きました。まるで自分の口から出た言葉とは思えませんでした。命を賭けて戦う戦闘機乗りが、ましてこの戦争で死ぬ覚悟で戦っている自分が、そんなことを言うとは。
宮部上飛曹は何も言わずに、深く頷きました。
「永遠の0(ゼロ)」百田尚樹著(講談社文庫) ISBN: 9784062764131
終戦から60年。目的を見失ってぶらぶらしている26歳の健太郎は、ふとしたことから太平洋戦争の特攻で死んだ祖父・宮部久蔵について調べ始める。最期の日々を知る戦友を訪ね歩くうち明らかになっていく、戦争というもの、祖父の人物像と秘めた思い、そして驚愕の真実。
文庫で570ページを超える大部だが、ほとんど一気に読んだ。児玉清さんが絶賛したというのも頷ける。零戦の息詰まる空中戦の描写は手に汗握るし、当時の優れた技術力や真珠湾、ガダルカナルなどの経緯の説明も丁寧。著者はなぜ作戦とも呼べない無謀な特攻が実行されたのか、を探り、優秀なはずの海軍のリーダーたちの官僚性に迫っていく。もちろん多くのフィクションをまじえているのだろうが、相当な情報量が詰め込まれていて、全編にみなぎる並々ならない情熱に、まず舌を巻いた。
だが、もちろん物語の核は宮部久蔵という人物の魅力だ。健太郎が調べてみると久蔵は才能と努力によって、パイロットとして卓越した技量を獲得しながら、「生きて帰る」ことに徹底して執着し、到底軍人らしからぬ臆病者として、周囲に強い違和感を与えていた。当時としては忌み嫌われるような信念を隠さなかった訳はいったい何だったのか、さらには、それほどの信念を公言しながらなぜ、特攻として逝ったのか。一級のミステリーといえる謎解きの後に、人が本当に守るべきものの存在が鮮やかに浮かび上がって、感動が押し寄せる。過去と現在が響き合う、とても著者デビュー作とは思えない力業。
健太郎に戦争を語り聞かせる男たちは、もう高齢だ。上場企業のトップまでつとめた人物も、ヤクザ者もいる。境遇は違えど、それぞれ胸に辛い記憶を秘めて戦後を生き抜き、それでも相手がほかならない久蔵の孫ならばと、重い口を開く。小説の設定から、さらに時は流れてしまった。すぐそこにある歴史を知ることの意味を、考えさせられる。
余談だけど、2013年末公開予定の映画化で宮部を演じるのは岡田准一。厳しい現場で丁寧な言葉遣いをする、というところが「SP」のイメージで、合ってるかも。(2013・1)
« 残念な日々 | Main | ストーリーとしての競争戦略 »
Comments