残念な日々
ぼくのしぼんで小さくなった白髪の天使はソファに座り、マレーネ・ディートリッヒの〈ジョニー(もし貴方の誕生日だったら)〉をいっしょに口ずさんでいた。口ずさむだけだったのは、歌うとぼくに悲しみを見破られてしまうからだ。物語が祖母の人生の収穫だった。
「残念な日々」ディミトリ・フェルフルスト著(新潮クレスト・ブックス) ISBN: 9784105900946
ベルギー・フランダースの俊英による連作短篇集。自伝的、ということで単なる思い出のエピソードではなく、作家自らの原型である家族のかたちが詰まっている感じがして、可笑しくも切ない物語だ。
母が家を出たため、幼いディミトリー少年は父と一緒に片田舎の祖母の家に転がり込む。狭い家にはご同様の事情を抱えた叔父が3人も同居していた。揃いも揃ってぐうたらで下品で、酒とギャンブル、女に弱く、酔った挙句の喧嘩や警察沙汰も絶えない兄弟たち。主人公は長じて作家になり、そんな家族と距離を置くようになった。けれど行間には読む者の胸を締め付けるような、愛情としか呼べない思いが流れている。
訳者長山さき氏のあとがきによると、フランダースの刑務所では聖書の次に本書がよく読まれているのだとか。それからもう1点、村の方言を「関西地方の方言を控えめに用い」て表現した、とある。どうりで読んでいてずうっと、「じゃりン子チエ」のイメージがちらついていたわけだ。いい感じである。(2013・1)
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