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December 15, 2012

湿地

「この話はすべてが広大な北の湿地のようなものだ」
 エーレンデュルは黙り込み、エヴァ=リンドもなにも言わずに静かに座っていた。
 しばらくして彼女は立ち上がると、父親のそばに腰を下ろした。両腕を父親にまわして、しっかりと抱きしめた。

「湿地」アーナルデュル・インドリダソン著(東京創元社) ISBN: 9784488013431

レイキャビィク、10月。北の湿地(ノルデユルミリ)にある石造りのアパートで、ひとり暮らしの老人が死体で見つかった。現場に残された謎のメッセージを刑事エーレンデュルが追う。
最近話題の北欧ミステリー、初邦訳のアイスランドの作家を読む。陰鬱な空気が立ちこめる雰囲気は、土地柄なのだろうか。何しろ全編、雨が降っているのだ。勉強不足で、アイスランド人の名前には姓がないということを初めて知った。
謎解きにもアイスランド独自の事情が反映しており、いろいろ発見があって興味深い。けれど読後感はそういうこととは関係なく、馴染み深い国の小説を読むのと変わらなかった。不器用だけど粘り強い刑事の捜査、次第に明らかになる過去と家族の悲劇。終盤のスピード感、そして幕切れには苦い思いを抱えつつも、じんわりと主人公の人生の再生が予感される。
決して大上段に構えてはいないが、確かな読み応えだ。寂しくて冴えない中年の、でも誠実な主人公の造形が魅力的。柳沢由実子訳。(2012・11)

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