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December 06, 2012

象の消滅

「暑いわね」と娘が僕に言った。
「暑いね」と僕も言った。
 やれやれ、とまた僕は思った。今日いちにち、話しかけてくるのは女ばかりだ。

「象の消滅 村上春樹短編選集1980-1991」村上春樹著(新潮社) ISBN: 9784103534167

米クノップフ社が1993年に出版した短篇集を日本語版で読む。「ニューヨークが選んだハルキ」だ。本のデザインも洋書風にしたのか、黄色い小口がペーパーバックのようでお洒落。著者自身の前書きによると、「TVピープル」で「ニューヨーカーに載った最初の日本人作家」となったのが1990年のことだ。そしてこの日本語版が出た2005年は、ちょうど「海辺のカフカ」の英訳がニューヨーク・タイムズで「今年の10冊」に選ばれたころ。国際的作家の足跡に思いをはせつつ、今となっては懐かしい初期の17篇をぽつりぽつりと読んだ。

あまたいるハルキファンに比べれば、私は決して作風に精通しているわけではないけれど、長編でいえば「ねじまき鳥クロニクル」(1992年の連載)以前にあたるせいか、どの短編にも理不尽な暴力とか悪とかは登場しない。その代わり、私たちを取り巻く現実と自身の内面との微妙な、しかし決定的なずれが繰り返し淡々と描かれる。
お馴染み「TVピープル」に登場する「いくぶん小さい人たち」は、小さいのだから決して怖くはないし、むしろ周囲にしっくり溶け込んでいる。けれど、どこか読む者をぞくっとさせる存在だ。そして、なぜかTVピープルというものをすんなり受け入れちゃっている会社の同僚とか家族とかが、身近にいるのに遠のいて感じられてくるのだ。気持ちが遠のくと、少し小さく見えるのだろうか… 村上春樹と同時代に生きるラッキーを再確認。(2012・11)

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