太陽は動かない
「分かってますって! 要するに死ぬなってことでしょ!」
「太陽は動かない」吉田修一著(幻冬舎) ISBN: 9784344021686
アジアを舞台に、国家プロジェクトと国際利権をめぐって産業スパイたちが繰り広げる壮絶な攻防を、電子書籍で読む。またしても吉田修一にやられた。芥川賞から柴田連三郎賞まで、守備範囲の広さを少しは承知していたつもりだけれど、まさか「悪人」や「横道世之介」の後で、暴力やら謀略やら満載のスパイ小説でくるとは。これもまた、吉田流職人芸というべきか。
緻密な筋運びや心理描写を期待すると、完全に裏切られる。なにしろ全編トム・クルーズばりの派手なアクションシーンの連続だ。絶世の美女、謎の組織、天才科学者も登場。主人公は東京、上海、ホーチミンを股にかけ、トップスピードで駆け抜けていく。野望とか、愛国心とかのためでなく、それはただ、生き残るための闘いだ。
ともすれば陳腐になりそうなアクション巨編の設定を、時事的でスケールの大きい新エネルギーのエピソードが支えている。雑誌連載は2011年5月号から2012年1月号。エネルギーをめぐる問題意識を執筆当初から折り込んでいたのかはわからないが、今の社会状況を切実に感じさせつつ、やがて主人公たちの行動をごく個人的な原風景に落とし込んでいくあたり、半ば強引だけど、やっぱり巧い。目を離せない作家です。(2012・10)
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