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October 30, 2012

太陽は動かない

「分かってますって! 要するに死ぬなってことでしょ!」

「太陽は動かない」吉田修一著(幻冬舎) ISBN: 9784344021686

アジアを舞台に、国家プロジェクトと国際利権をめぐって産業スパイたちが繰り広げる壮絶な攻防を、電子書籍で読む。またしても吉田修一にやられた。芥川賞から柴田連三郎賞まで、守備範囲の広さを少しは承知していたつもりだけれど、まさか「悪人」や「横道世之介」の後で、暴力やら謀略やら満載のスパイ小説でくるとは。これもまた、吉田流職人芸というべきか。

緻密な筋運びや心理描写を期待すると、完全に裏切られる。なにしろ全編トム・クルーズばりの派手なアクションシーンの連続だ。絶世の美女、謎の組織、天才科学者も登場。主人公は東京、上海、ホーチミンを股にかけ、トップスピードで駆け抜けていく。野望とか、愛国心とかのためでなく、それはただ、生き残るための闘いだ。
ともすれば陳腐になりそうなアクション巨編の設定を、時事的でスケールの大きい新エネルギーのエピソードが支えている。雑誌連載は2011年5月号から2012年1月号。エネルギーをめぐる問題意識を執筆当初から折り込んでいたのかはわからないが、今の社会状況を切実に感じさせつつ、やがて主人公たちの行動をごく個人的な原風景に落とし込んでいくあたり、半ば強引だけど、やっぱり巧い。目を離せない作家です。(2012・10)

October 21, 2012

ウェブはグループで進化する

いまや誰が誰とつながっているのか、誰と会話しているのか、誰とアイデアを共有しているのかをかなり正確に把握することが可能だ。

「ウェブはグループで進化する」ポール・アダムス著(日経BP社) ISBN: 9784822249113

グーグルからフェイスブックに転進した、はやりの「ユーザーエクスペリエンス・デザイン」の専門家が、ウェブマーケティングの手法を解説する。オンラインはオフラインの日常に近づいている、つまり何か新しいボーダーレスな体験ではなく、リアルな知人とのごく普通の雑談の場だ、と著者はいう。最近の「LINE」の興隆などをみると、とても現実的な指摘だ。ちょっと夢がないくらいに。人と人の繋がり方や意思決定プロセスの分析も、ごく常識的なものだ。

販売促進で、たったひとりで多くの人を動かしちゃう、いかにもウェブらしい「インフルエンサー」を利用しようとする戦略は、実は効率が悪い、というのが著者の主張だ。かわりに、規模が小さくてリアルな、ごく普通の人間関係をウェブの膨大なデータから抽出し、その関係に乗っかって情報を伝達していく手法を勧める。一人ひとりから、きちんと情報伝達のパーミッションをとることも重要だ。

こんな手法を可能にしたのが、フェイスブックということだろう。原著は2011年11月の出版だから、同社はメンローパークに移転する直前、世界の注目を集めて最も勢いのあるころか。ウェブの歴史の一断面を感じさせる。小林啓倫訳。(2012・10)

October 20, 2012

贖罪の奏鳴曲

死んだ人間の分まで懸命に生きろ。決して楽な道を選ぶな。

「贖罪の奏鳴曲(ソナタ)」中山七里著(講談社) ISBN: 9784062173773

弁護士・御子柴礼司は雨の夜、ある犯罪に手を染めた。その真意とは。「このミス」大賞作家の一冊を電子書籍で。

2つの事件が絡み合いつつストーリーが進む。1つは小さな製材所の経営者の死。妻の美津子に保険金殺人の疑いがかけられて公判中だ。もう1つの事件はある雨の夜に起きたフリーライターの死。被害者はあえて美津子の弁護を引き受けた辣腕弁護士・御子柴と接点があった。一癖ある御子柴の身辺を洗い始めた埼玉県警の刑事、渡瀬と古手川は、彼の隠された過去を知る。

果たして見かけ通りの冷血漢なのか、それとも…。寡黙な御子柴の複雑な人物像が、読む者をぐっと引き込む。彼の過去を丹念にたどっていく部分は、リアリティはともかくとして、こってりした人間ドラマの色彩だ。その分、謎解きはちょっとあっけない感じがしちゃうし、決して後味がいいとも言えないものの、なかなか読み応えがあった。(2012・9)

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