ローマ人に学ぶ
ローマ史は歴史の実験場といってもよい。君主政も共和政も民主政も衆愚政もあり、革命もクーデターもテロもなんでもありなのだ。その興亡史は起承転結がはっきりしており、話題はくめども尽きない。
「ローマ人に学ぶ」木村凌二著(集英社新書) ISBN: 9784087206272
古代ローマ史の研究者が、伝説上の建国から西ローマ帝国皇帝の廃位まで、千二百年の歴史を生きた人々の素顔に迫る。
私的イタリアシリーズの2冊目。一時は地球人口の実に三分の一が住むという類を見ない巨大帝国を築き、そして滅亡した古代ローマ。そのアップダウンの記録をたどれば、人間の賢さについても愚かさについても、高貴についても下劣についても、たいていのことは実験済み、ということらしい。確かにリーダーにスポットをあてても、英雄カエサルや五賢帝から暴君ネロまでよりどりみどりだ。
もともと愚直な農民であり、土地や財産を守ることにこだわって、粘り強く実行したとか、安定期の皇帝は政治的な妥協と強固な行政機構で国をコントロールしていたとか、近現代の話であっても不思議ではないようなエピソードが豊富で、示唆に富む。
本書の冒頭ではローマ史に魅せられた人々として、マキアヴェリやモンテスキュー、丸山眞男に触れている。ほかにもゲーテとか寺田寅彦とか、イタリアで触発され、様々な考察を遺している古今東西の知識人は枚挙にいとまがない。国家、文明がもつストックの底力を思う。(2012・8)