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September 02, 2012

ローマ人に学ぶ

ローマ史は歴史の実験場といってもよい。君主政も共和政も民主政も衆愚政もあり、革命もクーデターもテロもなんでもありなのだ。その興亡史は起承転結がはっきりしており、話題はくめども尽きない。

「ローマ人に学ぶ」木村凌二著(集英社新書) ISBN: 9784087206272

古代ローマ史の研究者が、伝説上の建国から西ローマ帝国皇帝の廃位まで、千二百年の歴史を生きた人々の素顔に迫る。

私的イタリアシリーズの2冊目。一時は地球人口の実に三分の一が住むという類を見ない巨大帝国を築き、そして滅亡した古代ローマ。そのアップダウンの記録をたどれば、人間の賢さについても愚かさについても、高貴についても下劣についても、たいていのことは実験済み、ということらしい。確かにリーダーにスポットをあてても、英雄カエサルや五賢帝から暴君ネロまでよりどりみどりだ。

もともと愚直な農民であり、土地や財産を守ることにこだわって、粘り強く実行したとか、安定期の皇帝は政治的な妥協と強固な行政機構で国をコントロールしていたとか、近現代の話であっても不思議ではないようなエピソードが豊富で、示唆に富む。
本書の冒頭ではローマ史に魅せられた人々として、マキアヴェリやモンテスキュー、丸山眞男に触れている。ほかにもゲーテとか寺田寅彦とか、イタリアで触発され、様々な考察を遺している古今東西の知識人は枚挙にいとまがない。国家、文明がもつストックの底力を思う。(2012・8)

無菌病棟より愛をこめて

黙々とそれを食べているうちに、どうしようもなく泣けてきた。顔を伏せて気づかれないようにしていたつもりだったが、バレバレだったらしい。
「泣きながら食べてる」
夫がぼそりと言い、父も言った。
「泣きながら、全部食っとる」

「無菌病棟より愛をこめて」加納朋子著(文藝春秋) ISBN: 9784163750309

2010年6月、「ななつのこ」の作家は43歳で、急性骨髄性白血病と診断される。それから約8カ月の闘病記。

本好きブロガーさんたちの間で話題だった本を読む。「七人の敵がいる」を楽しく読んでいたので、発刊直後に著者がこのような大病をしていたということが、まず衝撃だ。なにより淡々と綴られている化学療法、骨髄移植のシビアさがなんとも壮絶で、読むだけで辛くなる。

しかし著者の姿勢はあくまで前向きだ。病状や治療の辛さだけでなく、少しでも体力を維持しようと、病棟の廊下でせっせと体操したり、ひとりの時間に好きなアニメやコミックを楽しんだり、という患者生活の日常にも紙幅を割いている。ユーモアを忘れず、夫(作家の貫井徳郎氏)やきょうだい、友人、医療スタッフに対する感謝の言葉を繰り返す。

心の中には暗い不信や不満もたくさん渦巻いたのではないか、と想像するのだけれど、著者がこの本を世に出したのは、そんなことを訴えたかったわけではないのだろう。同じような厳しい状況にいる患者とその家族に向けた、「どうか絶望しないで」というメッセージが胸を打つ。(2012・8)

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