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July 11, 2012

卵をめぐる祖父の戦争

風がさきほどより騒がしくなっていた。音をたてて、廃墟と化した共同住宅の壊れた窓を吹き抜けていた。神がドイツ軍と共謀して、わしらの市(まち)を吹き倒そうとしているかのようだった。

「卵をめぐる祖父の戦争」デイヴィッド・ベニオフ著(ハヤカワ文庫) ISBN: 9784150412487

2010年に各種ベストテンを騒がせた傑作を、文庫で。いやあ、面白かったです!

作家のディヴィッドが、ロシア移民1世の祖父の人生を記録しようとインタビューすると、話の大半は1942年の1週間に関するものだった。60万人以上の市民が犠牲になったと言われるレニングラード(サンクトペテルブルク)包囲戦のさなか。17歳のレフは秘密警察の大佐に卵1ダースを調達してこい、と命じられ、20歳の脱走兵コーリャと共に決死行に赴く。

著者は映画脚本で知られるだけあって、サービス精神満載、ハリウッド的展開が盛り沢山だ。レフとコーリャの奇妙な友情、ドイツ親衛隊少佐との息詰まる対決、気っ風のいいパルチザンの娘ヴィカとの淡い恋。喝采と涙がいっぱい詰まっている。
そして何より素晴らしいのはこうしたエンタテインメント性と、極限状態での人間の尊厳という重いテーマとが両立していることだ。多くの市民が長い飢餓に苦しんでいるときに、卵1ダースを手に入れようとする支配層、あるいは戦争というものの救いようのない馬鹿馬鹿しさ。だから決して国家を支えたいわけではないけれど、それでも諦めずに生き抜く、わが町「ピーテル」を守り抜いてみせるという、ぶれようのない軸が胸に響く。
生命の危機に瀕してさえ、お下劣なジョークを言わずにいられないコーリャや、薄汚い外見に高い教養を秘めたヴィカら、登場人物の造形がとても愛おしい。田口俊樹訳。(2012・7)

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