誤飲
小瓶1つ分に過ぎないのに、手に持ったバッグが、とても軽く感じられた。
「誤飲」仙川環著(小学館文庫) ISBN: 9784094086829
インフルエンザや花粉症など、身近な薬を題材にした連作短篇集。著者お得意の科学知識をからめた医療ミステリーというより、市井の人間模様に重点が置かれていて、また味わいがある。8人の男女を主人公とする8編で、章ごとに登場人物が少しずつ重なっており、緻密な構成だ。
夫婦の軋轢、結婚願望、フリーターからの脱却…。主人公たちは何とか現状を打開しようとしているのだけれど、小さな裏切りによって結局は思惑が外れてしまう、という展開が目立つ。後味は薬のようにほろ苦い。だからこそ、すべり込ませてある前向きのエピソードが、淡い希望を感じさせて効果的だ。ある登場人物がつぶやく、「人生、できることをやっていくしかない」という言葉。なかなか洒落てるなあ。文庫判小説誌の連載に書き下ろしを加えた。電子書籍で読了。(2012・6)