天使のナイフ
澄子は待っていたのかもしれない。いつの日か、少年たちが自分の犯した罪をきちんと受け止めて更正し、社会に戻ってきて自分たちと向き合うことを。
「天使のナイフ」薬丸岳著(講談社文庫) ISBN: 9784062761383
保育園に通う娘と2人、つつましく暮らすカフェオーナーの貴志に、思いがけない殺人容疑が降りかかる。被害者は、かつて妻を殺めた少年だった…。SNS「やっぱり本を読む人々。」選出150冊文庫の1冊。
2001年の少年法改正に至る議論をふまえた、2005年の作品。被害者遺族の視点で少年犯罪の割り切れなさを訴える導入部分は、切実なだけに読んでいて息苦しい。中盤からは様々な立場の人物が登場し、視点が相対化されていく。
加害者、共犯者、加害者の家族や恋人、少年の更生に携わる人々。償うこと、赦すということは何か、育て見守る者に何ができるのか。終盤にかけて、散りばめた多くの伏線をきっちり回収するとともに、この重いテーマを複眼的に描いていく。とてもデビュー作とは思えない、達者な筆力だ。
Kinoppyで電子書籍を購入し、今回はiPadを使って読んでみた。さすがにスマホより格段に読みやすく、快適だ。端末は重いけれど。江戸川乱歩賞受賞。(2012・5)
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