« 「八朔の雪」 | Main | 「シャンタラム」 »

May 04, 2012

天使のナイフ

澄子は待っていたのかもしれない。いつの日か、少年たちが自分の犯した罪をきちんと受け止めて更正し、社会に戻ってきて自分たちと向き合うことを。

「天使のナイフ」薬丸岳著(講談社文庫) ISBN: 9784062761383

保育園に通う娘と2人、つつましく暮らすカフェオーナーの貴志に、思いがけない殺人容疑が降りかかる。被害者は、かつて妻を殺めた少年だった…。SNS「やっぱり本を読む人々。」選出150冊文庫の1冊。

2001年の少年法改正に至る議論をふまえた、2005年の作品。被害者遺族の視点で少年犯罪の割り切れなさを訴える導入部分は、切実なだけに読んでいて息苦しい。中盤からは様々な立場の人物が登場し、視点が相対化されていく。
加害者、共犯者、加害者の家族や恋人、少年の更生に携わる人々。償うこと、赦すということは何か、育て見守る者に何ができるのか。終盤にかけて、散りばめた多くの伏線をきっちり回収するとともに、この重いテーマを複眼的に描いていく。とてもデビュー作とは思えない、達者な筆力だ。

Kinoppyで電子書籍を購入し、今回はiPadを使って読んでみた。さすがにスマホより格段に読みやすく、快適だ。端末は重いけれど。江戸川乱歩賞受賞。(2012・5)

« 「八朔の雪」 | Main | 「シャンタラム」 »

Comments

Post a comment

Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.

(Not displayed with comment.)

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 天使のナイフ:

« 「八朔の雪」 | Main | 「シャンタラム」 »