「八朔の雪」
そうだ、道はひとつきりなのだ。
揺れ動いていた心がぴたりと定まり、澪は秋晴れの空を仰いだ。
「八朔の雪」高田郁著(角川春樹事務所) ISBN: 9784758434034
人気の時代物「みをつくし料理帖」シリーズ第1作を、ようやく読んだ。SNS「やっぱり本を読む人々。」選出150冊文庫の1冊。
評判通りの大変健気な物語だ。幼い頃、大坂の水害でひとりぼっちになった少女・澪。料理の才を見込まれて料亭・天満一兆庵で修業を始めたのもつかの間、店がもらい火に遭ってしまう。主人と江戸に出てきたものの、今度は頼りのあてが外れ、細腕一本で料理人の道を歩き出すことになる。
避けようのない災厄の数々。それでもへこたれずに努力を重ね、身近な人々への感謝も忘れない澪を、思わず応援してしまう。特に、これと思った味に賭けるときの大胆さが爽快。澪を面倒みる気のいい蕎麦屋の主人・種市と長屋の面々、貧しくなっても商人の誇りを失わない一兆庵女将・芳、謎めいた浪人・小松原や全盛を誇る花魁あさひ太夫と、取り巻く人物も個性豊かだ。
田牧大和さんの「三悪人」シリーズで、美味しそうな料理の描写に引き込まれたけれど、こちらは当時の江戸で、戻り鰹や茶碗蒸しなど上方の味が珍しかったという発見が楽しい。巻末にレシピ付き。今回は「東京時代MAP大江戸編」(光村推古書院)をめくりながら読んでみた。(2012・4)
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