パブリック
ドイツの一部では、安全とプライバシーを守るために自宅の周りをブロック塀で囲む。オランダでは、家のなかで何が起きていてもカーテンを開けておくのが普通だとされる。だがあるノルウェー人に聞いたのだが、ドイツのお隣ベルギーでは、隣の外国人が自宅のカーテンを開けっぱなしにして下着姿で歩き回っているという理由で、警官が呼ばれたそうだ
「パブリック」ジェフ・ジャービス著(日本放送出版協会) ISBN: 9784140815137
様々なアイデアを積極的に公開、共有する「パブリックネス」。人気ブロガーの著者が、フェイスブックやブログの進化で可能になった、パブリックネス社会の効用を説く。
著者は「大公開時代」について、はっきりと推進の立場をとっている。中東の政変から消費者主導の製品開発まで、公開するメリット、シェアの価値については非常に楽観的。新しいことが起きている、世の中が変わっていく、という感覚は、読む者をとにかく前向きにさせる。メリットが及ぶと指摘している分野があまりに多岐にわたっているので、一つひとつの掘り下げ、説得力が弱い印象はまぬがれないけれど。
一方でパブリックの進展に懸念を示す人々、とりわけ「プライバシー擁護派」に対しては手厳しい。彼らは「慢性心配性の匿名集団」であり、しじゅう「何か悪いことが起きるかもしれない、と言う。悪いことなんてそれでなくても起きるのに」、という具合だ。
米国で法的権利としてのプライバシーが議論になったのは19世紀末と比較的新しく、そのきっかけはテクノロジーの進化、すなわち携帯カメラの普及だったという解説が興味深い。わざわざスタジオに行かなくても、個人が手軽に写真を撮れるようになり、その結果、パパラッチにあたる存在、迷惑な「コダックマニア」が出現したというのだ。
その携帯カメラを生んだイーストマン・コダックが2012年、チャプター11を申請し、入れ替わるようにフェイスブックが株式を公開するという偶然の符合は象徴的だろう。現代のテクノロジーであるSNSでは、個人情報は街角で勝手に盗み見られるのではなく、自分から積極的に公開していくものに転換した。
自分で自分の情報をコントロールする仕組みや知恵が、十分成熟しているとは、まだまだ言えない。知らないうちに情報が結びつけられたり、一人歩きしてしまう恐怖を、頑迷固陋とか、おじさん的だと決めつける態度は禁物だ。とはいえ、今や誰もがカメラを持ち歩いている状態に全く違和感がなくなったように、常識の軸は意外に早く、動いていくのかもしれない。
ちなみに今作は、電子版をダウンロードしてスマートフォンで読んでみた(Kinoppy for Android)。文字の大きさを変えらるのが便利だが、当たり前ながら拡大縮小すると全体のページ数も変わることに、ちょっと馴染めなかった。どうやら紙の本のページ数で、全体の分量を感覚的に掴む癖がついているらしい。小林弘人監修・解説、関美和訳。(2012・3)
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