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March 04, 2012

FBI美術捜査官

美術品および骨董品の盗難は、越境犯罪としては麻薬、資金洗浄、不法武器輸出についで四番目にランクされる。

「FBI美術捜査官」ロバート・K.ウィットマン、ジョン・シフマン著(柏書房) ISBN: 9784760139965

FBIで美術犯罪チームを創設するという特殊なキャリアをもち、現在は警備会社を経営する著者が、地元フィラデルフィア・インクワイアラーの記者と組んだ回顧録。

国境をまたぐ犯罪組織とわたりあい、フェルメールやレンブラントの名画を追跡する。「ルパン3世」かと思うようなハラハラどきどきの実話が本書の白眉だろう。同時にそこへ至るまでの、地道な努力も生き生きと綴られていて、これがまたたいそう興味深く、美術好きでなくても十分楽しめる。

ウィットマンの手法は潜入捜査。中古市場などで得た情報から怪しいとにらんだ人物に近づき、盗品売買の話をもちかけたりして信用させ、時間をかけてじりじりと決定的な逮捕シーンへと追い込んでいく。相手との緊迫した駆け引きは、腕っこきの営業マンに通じるところがあるという視点が面白い。
またキャリアの中盤では、不幸な交通事故の責任を問われて辛い時期を過ごしたことを告白。屈託を抱えつつ、非主流の分野に活路を見いだして一躍マスコミの注目を浴び、FBIの規則からは少々逸脱した仕事ぶりに走って、面子を重んじる周囲と軋轢を起こしてしまう。FBIに限らずどんな組織でもありえそうな話で、これはこれでなるほどと思わせる。

意外に粗雑な美術館泥棒のやり口とか、日本の感覚からするとさして古くないような南北戦争ゆかりの品への米国人の強い思い入れ、といったエピソードも新鮮。土屋晃・匝瑳玲子訳。(2012・2)

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