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January 22, 2012

桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活

もはや桑幸は涙を隠す気力もなく、はいはい、泣いてます、大のおとなが泣いてますよ、え、あれですか、泣いちゃいけませんか? 泣いちゃおかしいですか? とここでもあっさり開き直った。

「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」奥泉光著(文藝春秋) ISBN: 9784163804606

「モーダルな事象」の小市民大学教授・桑潟幸一、通称桑幸(クワコー)が、東大阪市の短大から今度は千葉の大学に転じて、またまた事件に遭遇する。

前作は複雑緻密な長編ミステリーだったけれど、今作はぐんとスケールダウンして、日常の謎を扱った中編3作。クワコーシリーズのスピンオフの趣だ。それぞれきっちりミステリーになっていると同時に、40歳を迎えたクワコーのなんとも情けないキャラクターに磨きがかかって、思わず吹き出すことしきり。

相変わらず学問的な向上心に乏しく、学生を導く気概にいたっては皆無。日本文学を教えているが、なにしろ学生はおおむね常識が欠落、「松本清張、だれそれ」「知ってる、国会議員とかやってる人でしょ」という会話が飛び交う状況だ。
しかも転職に伴って、まさかの収入ダウン。田舎ながらものんびり気ままなはずの独身生活は、せこせこ節約に知恵を絞ることとなってしまった。頼りはコストパフォーマンスの良い卵と豆腐、頭のなかはほぼ豆腐でいっぱい、という姿が涙ぐましくも笑いを誘う。

際立って面白いのは、クワコーが顧問就任を命じられた文芸部に集う、個性豊かな学生たちの存在。とりたてて前途に希望があるようにはみえず、世間的にみればクワコー以上にわびしい境遇だったりするのに、いじけず拗ねず、淡々と日々を生きている。基礎的教養はなくても案外知恵があり、新任の顧問の小市民ぶりを見抜いてかまってやり、あまつさえ庇護する態度さえ示す。
負け組とか、下流という言葉ではくくりきれない、現代若者気質というべきか。魅力的な登場人物たちを迎えて、クワコーシリーズの新たな展開が楽しみです。(2012・1)

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