「11(eleven)」
物語はさまざまでも、締めの言葉はいつも同じだった。幸せに暮らしました、だとか、いつまでも悲しみました、といった結末のあと、彼は必ずこう言い足すのだった。
「でも私には何もくれない」
それを聞くたび、ノリコは吹きだしそうになった。
「11(eleven)」津原泰水著(河出書房新社) ISBN: 9784309020471
2011年の各種ミステリベストで話題になった1冊。ミステリというより、奇妙な味わいの11編を収録した短編集だ。
設定、雰囲気がきちんとあって、それが1作ごとに全く違う。ぞっとするホラー、軽快な青春小説、宇宙的スケールのSFファンタジーなどなど。引き出しの多さ、凝縮した作りが練達の職人を感じさせる。あっという間にそれぞれの物語世界に引き込んで、あっという間に終わってぽんっと投げ出す感じ、巧いなあ。
あとをひくような強烈さではないが、印象的な場面、フレーズがいろいろあって、たとえば「でも私には何もくれない」。琥珀磨きをしている女が単調な作業の間、同僚がイタリア人の祖母から聞いたという昔話の数々に耳を傾けるのだけど、いつもその最後につぶやかれるセリフだ。含蓄があるようでいて、とぼけている。
話題作とあってブロガーさんの言及が多いのだけど、11編のなかのお気に入りの1編が見事にばらばら。そこがまた面白い。個人的には夫婦が鏡越しに会話する「テルミン嬢」に、人と人の繋がりの困難と不思議を感じた。(2012・1)
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